本研究は、山陰地方における近代建築の洋風要素導入過程について包括的に研究するものである。特に山陰地方においては近代建築の調査報告が乏しく、記録されることも無く姿を消していく建築物が多い。よって本研究では、山陰地方に分布する近代建築について、建築意匠・構法の詳細な記録を作成したうえで、様式伝播に着目し、その成立と展開を読み解いていく。主な研究対象は明治期から大正期にかけての近代建築とし、特徴的な事例を選定し、実測調査をすることで、様式の伝播による近代建築の地域的な展開を明らかにした。本研究では、山陰における洋風要素導入過程とその展開を明らかにすることを目的としており、先述の背景・経緯から分析内容は以下の三つの観点から行った。 1.文献調査:松江市を中心とした山陰地方における近代建築に関する資料の収集を行ない、官公庁・学校・銀行・医院・駅舎・民間建物の分布状況を確認・整理する。また、島根県土木課職員を中心とした建築技術者の動向を把握し、中央の建築家が設計した建物が現存する場合はその資料の収集を行った。2.現地・実測調査等により特徴的な近代建築の記録を整理した。3.情報分析:収集された情報をもとに建築類型と時系列により整理を行った。さらに、擬洋風建築の導入と展開、伝統的建築の洋風化、スティックスタイルの登場、標準設計、大工・建築家の動向により整理を行い、洋風要素の伝播・様式の流行・山陰の特徴について整理を行った。 以上により、失われつつある山陰地方の近代建築の記録の整理と島根県における洋風要素の導入過程の変遷を明らかにしたことは学術的意義は高いと考える。このことは日本に導入された近代建築の歴史を上書きすることになるであろう。
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