本研究の目的は,戦前期に日本の影響下にあった全ての地域で営まれた製糖業に着目し,相互の比較を通じて類型化を行い,工場建設と周辺の地域開発との関係を明らかにすることである。当初は4年目である令和2年度が最終年度であったが,新型コロナウイルス感染症の影響から,令和3年度までの補助事業期間延長が承認された。ただし,令和3年度も,令和2年度と同様に出張が許可されず,現地調査ができなかった。しかし,発想を転換して,現在取り組むことができる方法で,最大限の成果が得られるように研究を推進することを目指した。特に,これまでに収集した資料/史料の精査にも時間をかけることができた。その成果は以下の通りであった。 台湾における製糖業と地域開発との関係に関する考察を進めることができた。台湾中西部の濁水渓流域では,原料採取区域の変遷を用いて製糖業による地域開発の進行の過程を明らかにすることができ,査読付き論文を発表することができた。台湾東部の卑南渓流域では,台湾総督府文書に挟み込まれている官有地の売渡もしくは貸渡に関する書類や地図を用いて製糖業による地域開発の進展を明らかにすることができ,査読付き論文を発表することができた。台湾南部の下淡水渓流域では,台湾総督府の糖業政策の変遷を検討することによって製糖業による地域開発の進展を検討することができた。 また,戦前期に日本の影響下にあった全ての地域相互の製糖業の伝播過程や関係について検討することができ,まとめの図を分担執筆した書籍に掲載することができた。また,樺太については,北海道立文書館所蔵の「樺太庁文書」を整理することができ,査読付き論文を発表することができた。ただし,令和2年度からの懸案事項であった朝鮮と満洲に関する調査は大きく進展させることはできず,戦前期に日本の影響下にあった全ての地域を対象に相互の比較を詳細に行うまでには至らなかった。
|