本研究では、イタリアにおける初期中世の教会堂建築において、環状に構成された列柱とそこに使用された再利用部材(スポリア)の配置計画について、教会堂の聖性の焦点との関係という視点から調査・分析を行った。 本研究では、6世紀から10世紀前後にかけて創建された以下の事例について、高精細画像を基に三次元モデルを作成し、堂内の建築部材と空間構成について分析を行った。 (1)サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂(イヴレア):クリプタおよびアプシス後背の周歩廊、(2)サンティッシマ・アンヌンツィアータ聖堂(プリンチパート・ウルトラ):教会堂聖域およびアプシス後背の周歩廊状カタコンベ、(3)サンタ・ソフィア聖堂(ベネヴェント):堂内、(4)洗礼堂(サンタ・セヴェリーナ):堂内、(5)サン・ジョバンニ・アル・セポルクロ聖堂(ブリンディジ):堂内、(6)テンピエット(カンペッロ・スル・クリトゥンノ):聖域および外観、(7)サン・ミケーレ・アルカンジェロ聖堂(ペルージャ):アプシスおよび細部、(8)サン・ジョバンニ洗礼堂(セッティモ・ヴィットー ネ):堂内 最終年度である2022年度は、このうちイヴレアのサンタ・マリア・アッスンタ大聖堂について補足調査を行い、画像データの取得と文献調査を行った。 調査結果を基に分析したところ、①聖性の焦点であるアプシスに向かう軸線に対して正対しない位置に特別な部材が配置されている、②聖性の焦点となる祭壇・聖遺物に対し、主入口から直視できないように視線を遮る位置に特異な部材を配置する、といった共通の特徴を抽出することができた。特にサンタ・マリア・アッスンタ大聖堂では、地下礼拝堂と上部周歩廊を視覚的に接続する開口部があるが、立体的な関係においても、祭壇への視線を遮るように構成されていることが分かった。
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