研究課題/領域番号 |
17K06766
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研究機関 | 呉工業高等専門学校 |
研究代表者 |
岩城 考信 呉工業高等専門学校, 建築学分野, 准教授 (50647063)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | モスク / 集落 / 墓地 / マレー系ムスリム / インド系ムスリム / インドネシア系ムスリム / ボーホラー派 / スンニ派 |
研究実績の概要 |
2017年度の現地での聞き取り調査と収集した資料の分析を通して、19世紀半ばから20世紀初頭にバンコクのムスリムコミュニティにおいて、インドのグジャラート州スーラトなどから来た人々が、社会経済的に有力な一族を形成して来たことが明らかとなった。彼らは、インドの諸都市とバンコクのみならず、シンガポールやスラバヤ(インドネシア)などの東南アジアの諸都市にもネットワークを形成しており、多様な経済活動を行ってきた。しかし同時に、タイには彼らの社会経済活動に関する詳細な先行研究や史料が、十分にないことが明らかとなった。 そこで、タイでの現地調査の代わりに、日本国内においてタイの経済学者、都市史や歴史地理学者、またインドネシアの政治学者との研究面談を通して、バンコクのインド系ムスリムに関する情報収集を行った。こうして、彼らのバンコク及び東南アジアにおける経済活動や出自について、分かりつつある。 また、タイに関する多くの史資料を所蔵する京都大学東南アジア地域研究研究所図書館において、所蔵する年次法令集の通読によって、仏教徒、ムスリム、キリスト教徒などにとって宗教的に重要となる墓地の設置に関する法律の変遷を把握することができた。これはイスラム空間において、重要である墓地の空間的な意義と立地を考える上で重要な作業である。また、ここでは、関係するタイ語や日本語、英語の文献の収集も行った。 このように、2018年度は、日本国内での研究活動を中心に行ったものの、研究は申請者の予想以上に順調に進んでいるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、バンコクに居住するムスリムのモスク、集落、墓地から構成されるイスラム空間の①空間分類を行い、さらにそれらの②立地特性、③周辺環境あるいは為政者との関係性、④入植者の入植時期と出自の相関関係を分析している。 すでに、バンコク都市部を中心に作製された1932年の古地図にイスラム空間をプロットし、それらの①空間分類、②立地特性に関する分析は、2017年度の現地調査で収集した口述史と史資料をもとに実施し、ほぼ終了したと言える。 2018年度は、収集した資料や戦前の年次法令集の読解から、イスラム空間の③周辺環境あるいは為政者との関係性、④入植者の入植時期及び出自の分析を進めてきた。特に2018年度は、日本国内における他分野の研究者との研究面談や史資料の読解を通して、これまで先行研究がほどんどない、インド系ムスリムの19世紀末から1940年代のバンコクにおける経済活動と都市開発の実態について研究を行ってきた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる今年度は、これまで収集した古地図や口述史、また史資料を改めて精査し、イスラム空間のバンコクにおける都市的な意義の分析をさらに詳細に実施する。 また、ムスリムのネットワークは、バンコク内のみならず、それぞれの出自の地域や都市(例えばインドネシア系であるならばジャワ島の諸都市、インド系であるならばラクナウやスーラト等の諸都市)、また社会経済活動の中で往来する東南アジアの諸都市と幅広いネットワークを形成してきた。そのためバンコクの西洋人やタイ人、また華人の建築家に依存することなく、独自に建築家や職人をインドなどから招聘しモスクやショップハウス、また住宅を建設してきたことが明らかとなってきた。 そこで、今年度は、19世紀半ばから20世紀前半にインドネシア系の商人(スンニ派)が設立したモスク及び周辺地区、また19世紀半ばから20世紀初頭にインド系の商人(スンニ派とボーホラー派)が設立したモスク及びその周辺地区において改めて、それらの建設の背景と建設者について、詳細な聞き取り調査を実施する予定である。 こうした研究を通して、西洋人や華人、また王や王族、官僚以外にも、多様な出自を持つムスリムが、バンコクにおいて近代的な建築や都市開発の手法を独自に導入してきたということを提示していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
勤務校(呉工業高等専門学校)及びその周辺地域(申請者の居住地区を含む)が、2018年7月西日本豪雨により被災し、授業日程が大幅に変更されたことにより、2018年8月から9月にバンコクでの現地調査を中止したため、次年度使用が発生した。
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