2019年度は、9月にバンコクにおいて現地調査とタイ国立図書館やチュラーロンコーン大学図書館などで関係する史資料の収集を行った。現地調査は、バンコクの郊外と都市部で行った。 1960年代以降にイスラム空間が拡大した郊外(バンコク東部のミンブリー地区など)では、農村を基盤とするコミュニティを調査した。都市部では、華人街(サムペン)において19世紀後半にマレー系ムスリムの官僚が、創建したモスクで、創立者の子孫から、利用者の民族(マレー系やインド系)や職業、墓地の運営などについて聞き取り調査を行った。また、トンブリーにおいて20世紀初頭にボーホラ派が創建したモスクで、インド系ムスリムのバンコクでの活動や生活史についての聞き取り調査を行った。そして、バンコクのインド系ムスリムは、現在もインドの諸都市と、バンコク、シンガポール、ヤンゴンなどの東南アジアの都市の間を往来し、多様な経済活動を行っていることが明らかとなった。 ただし、これまでの調査からタイにはマレー系やインド系のムスリムの活動に関する史資料が十分にないことが明らかとなっていたので、タイでの現地調査と並行して、日本での史資料の収集も行った。まず、バンコクのインド系ムスリムが経由したミヤンマー・ヤンゴンの都市史研究者やタイの経済学者や歴史地理学者といった他分野の研究者との研究面談を通して、バンコクのムスリムに関する幅広い情報の収集を行った。また、タイに関する多くの史資料を所蔵する京都大学東南アジア地域研究研究所図書館、アジア経済研究所図書館、国立国会図書館において、これまでの研究を補足するためのタイ語や日本語、英語の史資料の収集も行った。 こうして、2019年度は、日本とタイでの研究活動を行い、研究は順調に進んだと言える。
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