研究実績の概要 |
磁性がからんだマルテンサイト変態を示す遷移金属化合が化学量論的組成から外れたところで強磁性形状記憶材料等の機能特性を発揮することから,本研究は強磁性ホイスラー合金等のメスバウアー効果測定により微視的にSn原子の周りの磁気的状態を観測することを目的としている。前年度までに,Ni2Mn1+xSn1-x系, Ni2Mn1.48-xFexSn0.52系では,Sn濃度あるいはFe濃度の変化による自発磁化の増加に伴いオーステナイト(A)相ではSn位置の内部磁場が増加するのに対し,マルテンサイト(M)相では逆にSn位置の内部磁場が減少すること,Pd2Mn1+x Sn1-x(x=0.47) では, 温度の下降に伴い常磁性A相から強磁性A相, さらに非磁性M相に転移すること,等を明らかにした。ただ,これらの系での四極子分裂の値は小さく、M相とA相で有意な差が見られなかった。そこで,四極子分裂の変態の影響を調べるために,常磁性領域で変態温度があるCo2NbSnのスペクトルを観測し, 四極子分裂の値がM相とA相で明確に変化していることを明らかにした。これより, 上述の系では磁化容易軸と電場勾配の主軸の角度が効いているのではないかと考えることができる。また, Ni50-xCoxMn39Sn11の交流磁化測定等によりM相において強磁性スピンクラスターの振る舞いがあることが報告されていることから, Ni43Co757Fe0.5Mn39.5Sn10の57Fe,119Sn核の測定を行い,弱磁性M相において明確な磁気分裂を観測した。これは強磁性スピンクラスターの直接的な証拠となる。さらに, インバースホイスラー合金 Mn2Ni1+xSn1-x系の119Snメスバウアースペクトルを観測し, Ni2Mn1+xSn1-x系と比較することにより, マルテンサイト変態を起こす機構が異なることを示した。
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