研究課題/領域番号 |
17K06771
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
西野 洋一 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50198488)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ホイスラー合金 / 熱電変換 / 擬ギャップ / 高圧ねじり加工 / 非化学量論組成 / ゼーベック効果 / 超微細粒組織 / 熱伝導率 |
研究実績の概要 |
Fe2VAl系熱電材料について、非化学量論組成や元素置換に加えて、高圧ねじり(HPT)加工を利用することで結晶粒超微細化による熱伝導率低減のシナジー効果により熱電性能の大幅な向上を図った結果、以下の成果が得られた。 1. Fe2VTa0.1Al0.9合金についてHPT加工すると熱伝導率は約4 W/mKまで低減したが、873 Kで熱処理後もTaの粒界偏析により粒径100 nm程度の超微細粒組織となり、低い熱伝導率を保持している。その結果、無次元性能指数ZT=0.29(580 K)が得られた。また、HPT加工材とアーク溶解材との格子熱伝導率比について結晶粒径依存性を調べたところ、Ta置換量に依存せず一本の曲線に載ることが分かった。 2. 二元素同時置換合金Fe1.98V1.02-xTaxAl0.90Si0.10(x=0.05,0.07)についてHPT加工後に973 Kで熱処理を行ったところ、とくにx=0.07では熱伝導率は5 W/mK(300 K)となり、アーク溶解材の50%まで低減した。また、二元素同時置換により粒成長が大幅に抑制されて粒径20nm程度の超微細粒組織を観察した。この結果、x=0.05ではZT=0.29(360 K)、x=0.07ではZT=0.26(380 K)となり、アーク溶解材よりも最大で18%程度性能が向上した。 3. V/Al非化学量論組成Fe2VAlでは、n型Vリッチ合金よりp型Alリッチ合金の方が熱伝導率が高いため、p型Fe2V0.95Al1.05についてHPT加工の影響を調べた。873Kで熱処理後は電気抵抗率やゼーベック係数はHPT加工前の状態に回復したが、熱伝導率は12W/mKまで低減した。とくに格子熱伝導率は6W/mKとなっており、アーク溶解材の1/3以下の大きさであることから、元素置換しなくてもTi置換合金と同程度の低減効果が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Fe2VAl系熱電材料は、600 K以下の温度範囲における出力因子で比較する限り既存材料よりも高性能であり、しかも高強度で耐久性も高いことから自動車の廃熱回収への応用が期待されている。しかし、熱伝導率が既存材料よりも高いために性能指数が低いこと、n型に比べてp型のゼーベック係数が低いことが問題となっている。 とくにp型性能の向上を目的として、V/Al非化学量論組成のうち性能の高いn型Vリッチ合金に注目して、VをTiで部分置換したFe2(V1.08-xTix)Al0.92合金について調べたところ、フェルミ準位の制御によりゼーベック係数は負から正の値に転じるとともに、x=0.18で117μV/Kに達しており、p型Alリッチ合金を上回る大きさを示した。無次元性能指数はx=0.34において500 KでZT=0.13であるが、さらにTaで共置換することでZT=0.18となり、これまで報告されたp型Fe2VAl系熱電材料では最大性能である。 一方、Ta置換したFe2VAl合金についてX線吸収微細構造(XAFS)および蛍光X線ホログラフィ(XFH)測定による共同研究を行った結果、Taの熱振動は周囲のFeが追随して生じており、置換元のVの振動状態とは大きく異なることが分かった。また、X線非弾性散乱(IXS)測定からフォノンの分散関係を決定したところ、対応するTaの振動モードが検出されたが、これはTaの共鳴モードと考えられ、格子熱伝導率の低減に寄与していることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
1. Ta置換したFe2V1+x-yTayAl1-x合金を作製して熱電特性を系統的に評価する。この合金ではV/Al非化学量論組成と重元素Ta置換の複合効果で熱伝導率が6 W/mKまで低減することが見出されており、その中でZTが最も高い合金Fe2V0.98Ta0.10Al0.92についてHPT加工を施して熱電特性の向上を図る。また、熱処理後の電気抵抗率がアーク溶解材と比べて高い可能性もあるので、熱処理温度を最適化することで性能向上を追究する。 2, 結晶粒微細化や異相界面導入などによるナノ構造化は、フォノン散乱の増強により熱伝導率が低減できるので、熱電性能向上の手法として有効である。Fe2VAl系合金では、HPT加工や粉末冶金により結晶粒微細化することで熱伝導率は低減できるが、加熱による粒成長が大きな問題となっている。そこで、Fe2VAl系合金の結晶粒表面近傍に原子の拡散防止膜として窒化物を導入するすることで、加熱による粒成長の抑制と異相界面導入による熱伝導率の低減を同時に達成できることを検証する。 3. 新規ホイスラー合金として、Ru2TiSiおよびRu2TiGeにおいて高いゼーベック係数が期待できる。これらのRu系合金について熱電特性を調べるとともに、さらにHPT加工を行うことで熱伝導率低減の可能性を明らかにする。 4. Fe2V1-xTaxAl単結晶を作製して、放射光による非弾性X線散乱(IXS)測定によりフォノン分散におけるTa置換量依存性を調べることで、重元素ドープによる格子熱伝導率の低減メカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
高圧ねじり(HPT)加工後の試料のゼーベック測定ステージの購入を予定していたが、以下の理由により使用計画を変更した。 開発した熱電材料の合金組成の多元化やTa置換量の増加とともに合金の硬度が高くなったため、HPT加工用アンビルの材質を超硬合金に変更していたが、これによりアンビルの破損は避けることはできたが、加工中にアンビルが滑って強加工ひずみの導入が不可能となった。そこで、滑りを防止できるようにしたアンビルを特注することにしたが、年度内の納入が不可能であったため、次年度に購入することにした。また、HPT加工による研究およびシンポジウム成果発表等の旅費としても使用する。
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