研究課題/領域番号 |
17K06784
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
吉村 哲 秋田大学, 理工学研究科, 准教授 (40419429)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 強磁性強誘電 / 磁気Kerr効果 / 電界印加磁化反転 |
研究実績の概要 |
本研究では、強磁性・強誘電薄膜を、ホログラフィ方式を実現する空間光変調器の素子における光変調層に新規に適応して、空間光変調器の素子を超低消費電力駆動化および超微細化することで、高精細な立体テレビを実現することを最終目的とし、磁気Kerr効果の大きい強磁性・強誘電薄膜を探索する。 これまでに作製してきた(Bi0.6Ba0.4)FeO3 強磁性・強誘電薄膜の磁気Kerr回転角度は0.001程度であり、強磁性・強誘電薄膜を空間光変調器用素子の光変調層として十分な機能性を得るためには、磁気Kerr回転角度を0.1程度まで増大させる必要がある。 平成30年度は、平成29年度に作製に成功した、垂直磁気異方性を有する(Bi,La)(Fe,Co)03 強磁性・強誘電薄膜の磁気Kerr効果測定において、その膜厚や測定に用いるレーザ波長の最適化を行うことにより、最大で2°を超える磁気Kerr回転角が得られ、十分大きな値が得られた。 そして、レーザ波長によっては磁気Kerr回転角が小さい、磁気Kerr効果の膜厚依存性が大きい、などが問題になる場合には、提案書に記載の通り、強磁性・強誘電薄膜の電界印加による磁化反転をその上に積層された強磁性金属薄膜の磁化に転写することで解決できる可能性があることから、その検討も行った。[Co/Pd]n金属強磁性多層膜を2~3μm径のドットに微細加工して(Bi,La)(Fe,Co)O3 強磁性・強誘電薄膜上に多数配置させたものを作製し、局所電界を印加する前と後の磁気力顕微鏡像を比較した結果、[Co/Pd]nドットにおいて、黒と白のコントラストがランダムにみられる状態から、コントラスト(黒い部分)がほとんどなくなったことから、消磁状態から磁化状態に変化した(磁化が下に向いた)と言える。この結果から、電界印加による強磁性金属薄膜の磁化反転(磁気転写)が観測されたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度目から2年度目にかけて、磁気Kerr効果の大きい強磁性・強誘電薄膜を探索することを計画していたが、上記の通り、「反応性パルスDCスパッタリング法」で作製した(Bi,La)(Fe,Co)O3 強磁性・強誘電薄膜において、膜厚やレーザ波長によって変化はあるものの、最大で、目標とする磁気Kerr回転角度0.1倍の20倍以上の値が得られた。また、平成30年度後半に実施予定であった、現在立ち上げ中の「電気磁気効果測定装置」の改良(高分解能化・高感度化・高印加電圧化)に向けた取り組みについて、平成29年度末から前倒しで行い、電界印加に対する磁化(磁気Kerr効果)の変化を検出しつつあるところまで達している。そして、オプション検討であった、電界印加による強磁性金属薄膜の磁化反転(磁気転写)についても、上記の通り、実証できた。
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今後の研究の推進方策 |
レーザ波長によっては磁気Kerr回転角が小さい、磁気Kerr効果の膜厚依存性が大きい、などが問題になる場合に、今回検討した磁気転写以外に、新たな材料を探索および作製して、その解決を図ることを検討している。具体的には、磁気モーメントが大きいGdやNd、磁気Kerr効果が大きいTb、を置換元素として用いた材料系を候補としている。 また、「電気磁気効果測定装置」の改良(高分解能化・高感度化・高印加電圧化)を行い、電界印加に対する磁化(磁気Kerr効果)の変化を検出しつつあるところまで達しているが、未だ明瞭性に欠ける。この問題の解決のためには、同期検波法におけるレーザの変調周波数および(Bi,La)(Fe,Co)O3薄膜と[Co/Pd]n薄膜の膜厚比、などの検討を行うことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
垂直磁気異方性を有し保磁力も大きい(Bi,La)(Fe,Co)O3強磁性・強誘電薄膜において、最大1°程度の磁気Kerr回転角が得られた当初は、磁気Kerr回転角にその膜厚や測定レーザ波長の依存性が非常に大きいとは思っておらず、同一試料で何度も測定(メーカーや他研究機関の装置を使用)し直すことになった。また、強磁性・強誘電薄膜の電界印加による磁化反転を強磁性金属薄膜の磁化に転写する実験において、[Co/Pd]n金属強磁性多層膜を、磁気力顕微鏡で評価できるサイズの2~3μm径のドットに微細加工しなければならず、リソグラフィプロセスの条件を確立する必要があった。よって、消耗品を購入して新しい実験をする時間を十分に確保することが難しかった。平成31年度は、研究を加速させるため、研究補助員を雇って、Gd、Nd、Tb、などを置換元素とした新材料の検討などを加速させる。
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