研究実績の概要 |
本研究では、強磁性・強誘電薄膜を、ホログラフィ方式を実現する空間光変調器の素子における光変調層に新規に適応して、空間光変調器の素子を電界駆動化および超微細化することで、超低消費電力・高精細な立体テレビを実現することを最終目的とし、磁気Kerr効果の大きい強磁性・強誘電薄膜を探索する。 これまでの検討において、(Bi,La)(Fe,Co)O3薄膜における磁気Kerr回転角は最大で2°を超える極めて大きな値が得られたが、膜厚やレーザ波長に対して大きな依存性があり、実用性に難があった。よって、提案書に記載した、強磁性・強誘電薄膜の電界印加による磁化反転をその上に積層された強磁性金属薄膜の磁化に転写する方法の検討において、消磁状態からある程度磁化した状態に変化したことが判った。 令和元年度においては、この磁化反転割合を、磁気力顕微鏡像のラインプロファイルから詳細に評価した結果、下向きに磁化していた磁区の75%程度が上向きに磁化反転した、つまり、電界印加により強磁性金属薄膜の磁化が75%程度磁気転写されたことが判った。この磁化反転割合を更に増大させるためには、より大きな磁化を有する強磁性・強誘電薄膜が必要となることから、GdやNdでの置換を行った。更に、Feに対するCo置換に効果についても検討した。その結果、飽和磁化は、(Bi,La)(Fe,Co)O3薄膜では70 emu/ccであったが、(Bi,Gd)(Fe,Co)O3薄膜では80 emu/cc、(Bi,Nd)(Fe,Co)O3薄膜では120 emu/cc、となった。また、Feに対する25 at%程度のCo置換において飽和磁化は50 emu/cc程度増大することも判った。よって、今回作製した(Bi,Nd)(Fe,Co)O3薄膜を用いることにより、磁気Kerr効果の大きな磁性薄膜の電界印加磁気転写の実現が大いに期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度目から2年度目にかけて、磁気Kerr効果の大きい強磁性・強誘電薄膜を探索することを計画し、「反応性パルスDCスパッタリング法」で作製した(Bi,La)(Fe,Co)O3強磁性・強誘電薄膜において、膜厚やレーザ波長によって変化はあるものの、最大で、目標とする磁気Kerr回転角度0.1倍の20倍以上の値が得られた。また、平成30年度後半に実施予定であった、「電気磁気効果測定装置」の改良(高分解能化・高感度化・高印加電圧化)に向けた取り組みについて、電界印加に対する磁化(磁気Kerr効果)の変化を、少々ノイズが多いながら検出することにも成功した。令和元年度に実施予定であった「高飽和磁化の強磁性・強誘電薄膜の作製」について、準安定相であるε構造を有する(作製が困難であると予想された)Fe2O3薄膜の作製に着手することなく、これまで検討してきたBiFeO3系薄膜における元素置換において、ε構造のFe2O3薄膜と同程度の飽和磁化を有する(Bi,Nd)(Fe,Co)O3薄膜の作製に成功した。そして、オプション検討であった、電界印加による強磁性金属薄膜の磁化反転(磁気転写)についても、定量評価を行いその実証を示すことに成功し、かつ本方式に有用な高い飽和磁化を有する薄膜の作製にも成功した。
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