研究実績の概要 |
本申請研究の最終年度は、前年度業務多忙で実施できなかったデータ解析を中心に研究を進めた。その結果及び期間を通じて明らかになったことは以下の通りである:本研究課題の革新的アイデアは、p軌道から成る価電子帯とd軌道から成る最外内殻準位間で発現する許容型原子間輻射遷移のオージェ・フリー発光(AFL)を高強度化するための、不純物イオンによるd軌道内殻準位の構築と、そのd軌道内殻準位に内殻正孔を集中させることで、母体p価電子帯と不純物イオンによるd軌道内殻準位の間で効率の高いAFLを発現させるということにある。この目的を実現するため、AX:B(A=Rb,K、B=Zn、X=Cl)を中心に結晶を作製し、その特性をA2BX4と比較しながらシンクロトロン放射光等を用いた実験研究を実施してきた。実験データの解析から得た電子帯構造や光学特性(発光・励起・寿命等)等の考察を通じて明らかになったことは、AX:BにおいてAFLが観測できない理由として研究期間の中盤までは目的とする試料が作製されていないことにあると考えられたが、終盤に入るとその理由はとして、AX:Bでは不純物内殻d準位からs伝導帯への電子遷移に伴う吸収が、A2BX4の場合とは異なり電子遷移の部分禁制が解かれないために、いくらAFL遷移が許容化しても高強度化に必要な内殻正孔が十分に生成できないことが分かった。すなわち、原子間輻射遷移の許容化は最外内殻電子励起の許容化とトレードオフの関係にあり、AX:BにおいてAFLを高効率に発生させるにはより深い内殻準位を励起し、生成した内殻正孔が不純物内殻準位に移動する過程を構築するか、最外内殻電子遷移を許容化しうる新たな物理機構を構築しなければ、それを実現することはできないことが考察された。
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