研究課題/領域番号 |
17K06786
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
松嶋 雄太 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (30323744)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 深赤色蛍光体 / 3d遷移金属蛍光体 / アルミニウムリチウムフッ化酸化物 / 欠陥型無秩序スピネル / 鉄(III)イオン / マンガン(IV)イオン / 電子遷移メカニズム |
研究実績の概要 |
本研究では、フッ素ドープのアルミン酸リチウム(ALFO)を母体とする新規3d遷移金属蛍光体の開発を目的としている。狙いとしているのは深赤色領域の発光であり、その用途はLED照明から、太陽電池用波長変換、バイオマーカー、植物育成用特殊照明のように、日常生活から医療、エネルギー分野へと多岐にわたる。 これまでに、鉄(III)イオンに加え、マンガン(IV)イオンやクロム(III)イオンがALFO中で良好な深赤色蛍光を示すことを見出し、各発光中心イオンの励起・発光特性の調査や最適濃度を明らかにした。不明な点が多かった化学組成と結晶構造を詳細に解析した結果、(1) ALFOはLiAl5O8組成のスピネル型アルミン酸リチウムの関連物質であり、その違いはアルミニウムイオンとリチウムの陽イオン配列の違いにあること、(2) LiAlO5中のリチウムイオンとアルミニウムイオンの配列が秩序的であるのに対し、ALFO中での配列は無秩序であること、(3) ALFOの代表組成としてAl4.85 Li1.15 F0.10 O7.80が得られ、LiAl5O8アルミン酸リチウムよりもリチウムリッチであること、などを明らかにした。 平成30年度後半より、フッ素の導入と陽イオン無秩序化が3d遷移金属イオンの発光特性に与える影響を明らかにするために、分子動力学シミュレーション(MD)による局所構造解析を開始した。XRDが原子の周期的配列を調べるのに有効であるのに対し、ALFO結晶中の陽イオンの無秩序配列の分析には、必ずしも実験的手法が有効ではないためである。MDによる局所構造解析の準備として、これまでに構成元素を含む化合物の結晶構造を適切に再現する二体ポテンシャルを決定した。その過程で、特にフッ化物(AlF3、LiF)において、フッ素-フッ素間の分散相互作用がその結晶構造に大きな影響を与えることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は化学組成と結晶構造の解析をさらに進め、新規深赤色蛍光体母体アルミニウムリチウムフッ化酸化物(ALFO)の素性を明らかにすることができた。従来試行錯誤に頼らざるを得なかった蛍光特性向上のための取り組みも、発光中心イオンの配位環境という観点での材料設計が可能になった。従来発光中心として取り組んできた鉄(III)イオンに加え、新たにマンガン(IV)、クロム(III)が深赤色蛍光の発光中心イオンとして有効であることを見出し、最適濃度や焼成温度などの合成条件を明らかにした。 そのスピネル骨格中でアルミニウムイオンとリチウムイオンが無秩序に配列しているというALFOの性質上、XRDによる平均構造の解析は、ALFO中の発光中心周囲の局所構造を明らかにするのに必ずしも適していない。そこで本研究では、個々の原子の配位環境を明らかにするために、分子動力学シミュレーション(MD)を活用する。MDでは、(1) 陰イオンサイトの1.25%を占めるフッ素イオンによる陽イオンの無秩序配列化のメカニズム、(2) 発光中心イオン周囲の局所構造、の二点を重点的に明らかにし、ALFO蛍光体母体の特徴を原子レベルで明らかにする。MDにおけるポテンシャルは平成30年度中に精密化済みで、当初の予定通り進んでいる。また、当初計画では放射光X線吸収(XAFS)実験を予定していたが、予備検討の結果、蛍光体中の発光中心イオンの添加量が微量で実験的に高精度の情報が得られにくいこと、そして、実験と計算の差はあるもののXAFSで得られる情報は基本的にMDで補完できることから、限られた研究リソースを効率よくMDに集中させるためにXAFS実験はいったん保留することとした。
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今後の研究の推進方策 |
秩序型スピネルであるLiAl5O8と無秩序型スピネルであるALFOは骨格構造が共通しているにも関わらず、マンガン(IV)やクロム(III)発光中心において蛍光特性が大きく異なる。一方で、鉄(III)イオンは両母体で類似した発光特性を示し、“スピネル構造”という平均構造の観点ではこれらの特性の違いを説明することはできない。LED照明、太陽電池用波長変換、バイオマーカー、植物育成用特殊照明といった深赤色蛍光体としての応用へ向け、性能は向上しているものの、材料開発の速度をいっそう加速させるためには、局所構造に基づくメカニズム解明が欠かせない。そこで平成31年度の取り組みとして、実験的なアプローチと平行して、分子動力学シミュレーション(MD)による局所構造解析の比重を増加させる。そして、MDで明らかになった陽イオンおよび陰イオンの局所構造に基づきDV-Xα法による分子軌道計算を実施することで、局所構造と発光特性の関係を理論的に解明する。 照明からエネルギー、医療分野への応用が期待されるALFO母体3d遷移金属深赤色蛍光体を軸に、実験と計算に基づく材料研究アプローチによる精密材料設計の有効性を実証し、経験と理論が融合した新しいマテリアルイノベーションを提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定をやや前倒ししてコンピューターシミュレーションに移行し、試薬や器具等の使用を節約できたことで特に物品費の支出が抑えられ、次年度使用額が発生した。また、研究に参加した学生は、卒業論文研究および修士論文研究の一環として本研究に関わったため、人件費・謝金を執行する事案が生じなかった。次年度使用額は、主に成果発表のための旅費に使用する。
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