研究課題
深赤色蛍光体は一般照明の演色性の向上のほか、植物育成用の特殊照明やシリコン光電池の発電効率向上用の波長変換フィルターへの応用が可能で、日常用途から農業、エネルギーに至る分野に波及する技術である。深赤色領域の発光は希土類蛍光体が苦手とする領域であり、本課題において、当初対象としていたFe3+に加えてMn4+およびCr3+を発光中心に使用することで深赤色蛍光の可視光励起を実現した。母体化合物には、本課題で新たに開発したLi Al5 O8組成のアルミン酸リチウムの酸素の一部をフッ素で置換したフッ素ドープアルミン酸リチウム(ALFO)を使用した。本課題では、発光メカニズムを解明し、性能向上に向けた材料設計指針を得るために、合成条件が発光特性に与える影響を詳細に調査するとともに、分子動力学シミュレーション(MD)を用いて原子配列の可視化を試みた。出発原料より想定される化学組成はAl4 Li F O6であったが、実際には焼成の段階でリチウムの一部とフッ素の大部分が失われていることがわかった。一方、陰イオンサイトにわずかに混入するフッ素が発光特性に大きく影響することが確認され、Fe3+、Mn4+、Cr3+のいずれの発光中心イオンも、フッ素を含まない母体Li Al5 O8中に添加した場合に比べて、ALFO中で発光特性の向上または変化を示した。X線構造解析で得られた平均構造に基づき実施されたMDでは、スピネル骨格中の陽イオンサイトをAl3+とLi+が無秩序に分布しているのに加え、これらのイオンがスピネル構造の格子点から大きく変位している様子が示された。スピネル構造という結晶の周期性の中に、原子の分布のランダム性を含むALFOの結晶構造の特異性が明らかになった。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件)
Journal of the Ceramic Society of Japan
巻: 127 ページ: 627~635
10.2109/jcersj2.19113