研究課題/領域番号 |
17K06787
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小島 隆 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (70333896)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 粒子 / 多孔性 / 酸化物 / 金属アルコキシド法 / 水熱法 |
研究実績の概要 |
本研究では、化学的安定性を抑えることによって良好な反応性を有する金属水和酸化物(水を含んだ非晶質の金属酸化物)を原料とし、種々の機能性酸化物粒子へと変換するプロセスの確立を目的としている。具体的には、金属アルコキシドの加水分解条件の制御と、必要に応じて重縮合度の低い部位の溶出により、反応・溶解特性の異なる球形または多孔性の水和酸化物粒子をまず調製する。得られた粒子を単独または異種金属イオンと共に温水または熱水(100℃, 1気圧以上の水)中で保持する事により、原料の形状・多孔性を活かした酸化物粒子への変換を試みる。今年度の成果としては、 ① 水和チタニアまたは水和ジルコニア粒子を、異種金属イオンと共に温水中で保持することにより、触媒または蛍光体として応用可能であるペロブスカイト型化合物への変換を試みた。その結果、高比表面積を有するチタン酸系や、母体由来と賦活剤由来の発光を共に示すジルコン酸系のペロブスカイト型化合物粒子を合成できた。 ② 水和チタニア粒子の重縮合度や乾燥・湿潤状態が、その結晶化挙動と結晶化後の粒子の結晶性や比表面積等に与える影響を精査した。この際、比表面積よりも結晶性を重視することにより、良好な光触媒活性を示す粒子が得られた。 ③ Ta, Al系の水和酸化物粒子の粒径均一化および多孔化について検討した。Al系においては、合成に用いる溶媒の極性調整により、これまで不可能であった均一な粒子を合成可能とした。Ta系粒子においては、より溶出しやすいTiを混合し、Ti部の優先的な溶出による多孔化手法を確立した。 以上の成果より、粒子の化学的安定性を敢えて低く抑えることによって多孔化や結晶化、複合酸化物への変換を行う手法の有用性が実証された。本手法は汎用性が高く、幅広い酸化物系化合物に展開可能であり、新たな高付加価値の粒子材料調製法として展開が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度においては、研究実績の概要に記載したように、①水和酸化物粒子のペロブスカイト型化合物への変換、②多孔性粒子の化学的安定性制御と結晶性および比表面積調整への応用、③均一な水和酸化物粒子合成手法の新規金属種への展開という、当初の目標はほぼ達成できている。 ペロブスカイト型化合物粒子の合成に関しては、水和酸化物から複合酸化物粒子への変換時における粒径維持や凝集の防止と共に、合成時に用いる金属イオン濃度の調整によって高比表面化も達成している。また、H30年度に予定していた水和酸化物中への微量金属(賦活剤)の均一な添加手法についてもほぼ確立できており、若干予定を前倒しての検討も進んでいる。また、水和チタニア粒子合成時の加水分解条件を従来よりもさらに穏やかに設定することにより、粒子の表面部のみならず、粒子中央部に至るまでの多孔化も行えるようになっている。この点に関しては当初の予測以上の成果であり、今後はより高い反応性がと期待される深部まで多孔化した水和酸化物粒子を用いての検討も行う予定である。 研究実施計画に記載した内容のうち、Nb系粒子の合成とAl系粒子の多孔化は達成できていない。このうちNb系についてはTa系と似た挙動を示すと予測され、今年度は人員の都合上、検討を見送った。Al系においては、多孔化には至らなかったものの、これまで困難であった粒径の均一化を達成している。この結果を踏まえ、Al系粒子の結晶化に関する予備的検討も開始しており、概ね順調に検討は進展している。 以上の現状より、交付申請時に想定した研究実施計画をほぼ順調に遂行することができていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度までに合成を可能とした各種水和酸化物粒子を用い、高比表面積化等に有利な特異形状を有する粒子の合成や、金属種の均一なドープによる各種触媒や蛍光体粒子の合成および高機能化を試みる。また、本手法のさらなる展開のために、水和酸化物粒子の結晶化機構に関する基礎的な検討も行う。具体的には、 ① 加水分解条件や乾燥状態の制御により、様々な化学的安定性を有する水和酸化物粒子を合成し、その反応性・溶解特性を活かして均一かつ特異形状・高機能を有する酸化物系粒子の合成を試みる。Ti系、Ta系おいては、特にアルカリ金属との複合酸化物粒子合成についての検討を始める。予備的な実験において板状結晶が不均一生成することが判明しているNa-Ti-O系においては、触媒反応等に有利な結晶面が選択的に拡がった粒子の合成を試みる。Na-Ta-Oにおいては、原料の反応性を活かし、比表面積と結晶性が両立した立方体状粒子の合成を目指す。また、チタン酸ストロンチウム系においても、液相下での結晶化のみならず、適切な加熱手法の検討により、高い比表面積と結晶性の両立を目指す。 ② 水和酸化物粒子調製時において触媒活性や蛍光特性の発現に有効な金属種の均一なドープし、さらに各種機能性複合酸化物への変換手法を確立する。各種ペロブスカイト型ジルコン酸塩合成に関する検討をさらに進めるとともに、Al系粒子においても複合酸化物への変換を試みる。また、水和酸化物の溶解・再析出を伴って変換が生じる系では、特異な形態を有する結晶が生成することも多いため、その生成機構に関する検討も行う。 ③ Ti系を中心に、水和酸化物粒子の合成・乾燥条件を調整し、溶出操作および結晶化を試みることにより、用途に適した多孔性・結晶性および比表面積を任意に制御できる手法の確立を試みる。また、水和酸化物粒子の結晶化機構に関する基礎的な検討を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた設備備品(高圧マイクロリアクター(撹拌型反応容器))の購入を見合わせ、一台の設備備品の購入に切り替えた。その結果、研究遂行に必要な予算総額が抑えられることとなり、次年度使用額が生じた。 研究当初は、温水・熱水中での変換反応時における粒子の分散状態(撹拌)制御が重要であると想定していたため、撹拌型の反応容器を購入する予定であった。研究の進展に伴い、原料である水和酸化物粒子自体の特性(分散性・均一性・反応性)が、より重要であることが判明したため、購入を見送った。結果として39万円程度の次年度使用額が発生した。 次年度使用額は比較的少額であるため、ガラス器具類、実験用試薬等の消耗品代として使用する。また、より低額の非撹拌型反応容器を複数購入することにより、研究の効率向上に用いる予定である。
|