研究課題/領域番号 |
17K06788
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
太田 寛人 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (60546985)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遍歴電子磁性 / 層状化合物 / サブナノシート磁石 |
研究実績の概要 |
初年度に引き続き、I.「サブナノシート磁石を有する化合物の系統的大規模探索」を実施した。 特に、初年度に合成を試みたNaCoPn (Pn=P,As)の合成を行った。単体のNaは化学的に不安定であり、また揮発し易い特徴のため、待機中で安定なNaN3を原料として合成を試みた。その結果、400℃での仮焼成ではナトリウムは揮発しておらず、NaCoAsに関しては原料の1つのCoAsと明らかな質の変化が見られた。しかし、700℃程度で本焼成を行うと、Naが揮発し、NaCoPnが得られないことが分かった。本焼成の温度を最適化することで、NaCoPnが得られると考えられる。また、このNaCoPnを原料に、イオン交換を施すことで、固相反応とは異なる組成のLiCoPnも得られると期待できる。 また、実施計画の II.「新規層状磁石への機能付加・高機能化」に関して、以下の研究結果が得られた。 これまでの研究において、SrCo2Pn2 (Pn:P,As)にNi部分置換を行うとCoPn伝導層に強磁性秩序を誘起できることが分かってきた。これを参考に、2価のEuが50 Kにて反強磁性秩序を示すEuCo2P2にNi部分置換を施した。その結果、置換量が20%程度の物質では、約150 KにてCoP伝導層に強磁性秩序が生じ、さらに約50 Kで反強磁性に逐次相転移することがわかった。また、Ni置換量が30%程度では構造が潰れた正方晶となり、強磁性状態での自発磁化が増大した。この強磁性-反強磁性転移は申請書にも書いたLnCoPnO (Ln=Nd, Sm)に見られた現象であり、同様に大きな磁気抵抗効果や磁気熱量効果が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度終了時は若干の進捗の遅れがあったが、今年度は合成手法の変更や対象物質の中で研究の進展があったため、概ね申請時の計画の水準に戻ったと考えている。 具体的には、LiCoAsに関するアプローチの方法を、直接合成から前駆体としてNaCoAsを合成する方法に変更したことで、研究テーマ全体として進捗の度合いが増した。また、EuCo2P2のNi部分置換に関しては、初年度の実施報告で提案したACo2Pn2のAサイトへの磁性元素の導入を実践した結果であり、今後圧力の印加による物性や構造の変化を研究する対象とすることができる。
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今後の研究の推進方策 |
I.「サブナノシート磁石を有する化合物の系統的大規模探索」:現在研究を進めているNaCoPn (Pn=P,As)の合成を引き続き実施する。また可能であれば、より大きなアルカリ金属を用い、ACo2Pn2 (A=K,Rb,Cs)の合成も試みる。また、これらに対してより小さなイオン半径のアルカリイオンやアルカリ土類イオンへの交換を行う。また、酸化剤を用いたイオンのデインターカレーションを行い、物性の制御を試みる。物性と構造の関係を明らかにする。 II.「新規層状磁石への機能付加・高機能化」:圧力印加装置の購入状況や外部施設での測定が可能であれば、これまでに得られた試料の圧力下での物性測定を行い、圧力誘起相転移の観測を行う。また、磁性層間への磁気モーメントの導入を引き続き実施する。近年、NaCoO2のNaが希土類と3:1の比率でイオン交換することが報告された。この手法を応用し、ACoO2やANiO2などに対して層間への希土類の導入を行い、磁性の変化を観測する。その他、申請時に計画した物質に対して層間への磁気モーメントの導入を実施する。 III.「サブナノシート磁石の新規制御法の探索」も可能であれば実施する予定であるが、現在順調に進捗している I, II を優先的に実施し、より多くの新規層状磁性体を探索する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 主な理由として、初年度終了時に次年度使用額が発生し、ほぼそのまま最終年度に繰越すためである。これは、今年度の実験進捗が申請時の計画に沿っていたためである。 (使用計画) 上記理由により発生した次年度使用額は、次年度の最初から切れ目なく研究を実行するために使用する。具体的な使用計画は、不活性ガス雰囲気用のアルゴンガスの購入や石英管、および研究を切れ目なく遂行するために必要な消耗品の購入である。
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