研究課題/領域番号 |
17K06794
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
村岡 祐治 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (10323635)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スピノーダル分解 / 多層膜 / TiO2-VO2 / 異原子価ドープ / ルチル型酸化物 |
研究実績の概要 |
「TiO2-VO2系スピノーダル分解に異原子価ドープの分解速度に与える影響」 スピノーダル分解を示すルチル型酸化物TiO2-VO2系において、相分離の速さが異原子価イオンのドープにより変化することを見いだした。微量のAl3+イオンドープにより相分離速度は促進され、Nb5+ドープにより抑制される。この結果は、TiO2-SnO2系の場合と同様、欠陥化学の観点から理解できることを示した。本研究は、ルチル型酸化物系スピノーダル分解の速度論が共通の枠組みで理解できることを示唆している(J. Eur. Ceram. Soc. 37, 3177 (2017).))。 「TiO2-VO2系エピタキシャル配向膜におけるスピノーダル分解の発現」 TiO2-VO2系のエピタキシャル配向膜でスピノーダル分解を実現し、Ti-rich相とV-rich相がナノスケールで交互に積層した多層構造の形成に成功した。(001)および(101)配向したTi0.4V0.6O2固溶体膜をTiO2/Al2O3基板上に作製し、400℃でアニールした。その結果、Ti-rich相とV-rich相がナノスケールで交互に積層した多層構造を得た。(001)膜でのrich相の積層は基板表面に対して水平に、(101)膜では斜めになっていることをTEM観察により明らかにした。なお、TiO2-VO2系 (101)エピタキシャル配向膜からのスピノーダル分解は本研究が初めての例である。一方で、(100)配向膜ではスピノーダル分解は起こりにくいことがわかった。TiO2-VO2系におけるスピノーダル分解膜を作製するポイントを明らかにし、再現良くスピノーダル分解膜を得るための重要な作製指針を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TiO2-VO2系のスピノーダル分解発生について理解を深めることは、この系の超薄膜作製の道筋を決める上で重要である。現在までに、速度論とエネルギー論的な立場から、この系のスピノーダル分解に関する知見を得ている。速度論的な知見は、異原子価ドープ効果から得ている。価数の異なるイオンを数モル%ドープすることで分解速度が2ケタにわたり変化する。陽イオン欠陥量に伴う相互拡散係数の変化が原因である。この結果は、スピノーダル分解の速さを調整することに活用できる。エネルギー論的な理解は、エピタキシャル膜でのスピノーダル分解の研究から得ている。正方晶の結晶格子において、面内歪に比べてc軸歪は弾性エネルギーを大きく増大させ、その結果、スピノーダル分解が発生しにくくなる。スピノーダル分解の発生には、c軸歪のできるだけ少ない膜を作製することが重要である。 これらの結果は、TiO2-VO2系におけるスピノーダル分解膜を作製するポイントを明らかにしている。再現良くスピノーダル分解膜を得るための作製指針が得られている現在、研究は概ね順調に進展している判断している。
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今後の研究の推進方策 |
当面の課題は3つある。1つ目は論文作成である。TiO2-VO2系エピタキシャル配向膜におけるスピノーダル分解の発現の結果をまとめる。これは現在進行中である。2つ目はTiO2-VO2系(100)配向膜におけるスピノーダル分解の発生である。研究方針はc軸歪の極めて小さい膜の作製である。具体的にはファンデルワールスエピタキシーを活用する。このエピタキシャル成長膜では基板と膜の間に生じる化学結合力は弱く、成膜第1層から格子歪の無い膜が創り出せる。VO2膜をマイカ基板上にファンデルワールスエピタキシーさせた例があるので、マイカ基板を活用した実験を行う。3つ目は物質開発である。異方的スピノーダル分解が起きる新たなルチル型酸化物系を探索する。系としてTiO2-RuO2に注目する。この系では等方的な分解のみが観測され、異方的な分解の例はない。本研究では、エピタキシャル成長膜における面内格子の固定を利用して、(001)配向膜における、[001]方向への相分離の発現をめざす。 スピノーダル分解が異方的に起こる例は珍しい。ルチル型酸化物系は貴重な物質群である。本研究により異方的分解の起源について理解を深める。また、相分離後に生成する無数の界面を活用した機能探索にも力を入れる。
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