研究課題
最終年度は、Ti0.4V0.6O2(TVO)/TiO2(100)膜におけるc軸長歪がスピノーダル分解に与える影響を調べた。その結果、格子歪によりc軸長が引き伸ばされた膜では基板からのTi拡散が促進され、膜の組成はほぼTiO2になった。一方、c軸長歪の緩和した膜ではスピノーダル分解が起こり、界面近傍に固溶体が残ることがわかった。これより、TVO/TiO2(100)ではc軸長の伸長歪を緩和することがスピノーダル分解の発生に重要であることを明らかにした。また、スピノーダル分解により形成されるラメラ周期の決定因子に、c軸長歪とTi濃度の両方が重要であることも示した。研究期間を通し、バルク体と膜でTiO2-VO2系のスピノーダル分解を研究した。バルク体では、周期がアニール時間とともに26から48 nmに増大すること、相分離の速さが微量のAl3+イオンドープで促進され、Nb5+ドープでは逆に抑制されることを見出した。膜では、TiO2-VO2膜の配向を変えることで、ラメラ構造が基板に対して水平、斜め、垂直に配列した多層構造膜を作ることに成功した。膜のc軸長歪の緩和がスピノーダル分解の発生に重要であることも明らかにした。酸化物系でスピノーダル分解が異方的に起こる例は、本系以外にルチル型のTiO2-SnO2とコランダム型のAl2O3-Cr2O3の2例が知られているのみである。そのため、本系で得られる周期構造や分解速さの知見は、酸化物系スピノーダル分解の進行や分解方向のメカニズムを理解する重要な情報になる。また、本研究は、スピノーダル分解が酸化物の多層膜作製のための有効な手段になることを明示した。これによりこれまで困難であった超多層構造膜における物性・機能の研究が可能となった。スピノーダル分解を用いた多層化技術により今後、超多数界面による高出力太陽電池材料の開発に期待がもたれる。
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Thin Solid Films
巻: 698 ページ: 137854
10.1016/j.tsf.2020.137854
https://www.okayama-u.ac.jp/user/kouhou/ebulletin/research_highlights/vol25/highlights_002.html