研究課題/領域番号 |
17K06796
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
伊藤 昌和 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (40294524)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 熱整流素子 / 構造相転移 / 熱測定 |
研究実績の概要 |
29年度は構造相転移や磁気相転移を示す物質群の熱測定を行い,熱整流素子を構築する上で構造物質としての実現可能性を確かめた。具体的に得られた研究結果は以下の通りである。1)ホイスラー化物Fe2VSiの熱力学的特性:Fe2VSiは108 K付近に一次転移を持つ。この物質の比熱,磁化,電気抵抗率測定を行った。これらの結果から,低温磁化でみられる異常は,磁気的グラスの発達によることを明らかにした。2)ホイスラー化物Ni55Mn26Al19の熱力学的特性:一次転移であるマルテンサイト転移を発現すると報告されている,Ni-Mn-Al系化合物の比熱,磁化,熱伝導率,越膨張率測定を行った。その結果,この物質では先行研究で報告されているような一次相転移を示さないことが分かった。また,圧力によりこの系の強磁性・反強磁性相互作用の強さが増加することが分かった。以上の結果をまとめ,国際会議 2017 MMM (アメリカ)で発表を行った。3)ホイスラーFe2-xCoxMnSiの熱力学的特性:TC=230 Kで強磁性転移を,またTR=60 Kでスピン再配列転移を持つFe2MnSi及びFe2-xCoxMnSiの比熱測定を行った。これまで報告されているように,xの増加とともにTCは増加し,TRは減少するような振舞がみられた。磁気エントロピーの詳細な解析から,TR以下ではスピンのキャント角が小さくなることが分かった。結果をまとめ,学術雑誌で発表した。4)Mn-Ni-Ge系化合物の磁気的特性:Mn-Ni-Ge系化合物は磁気相転移と構造相転移が同時に発現する物質である。この物質のパルス強磁場による磁化測定を行い,マックスウェルの関係式から転移に伴う磁気エントロピーの変化量を高磁場領域まで求めた。結果を日本物理学会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度の研究目標の一つとして、熱整流素子を実現する候補物質の探索を挙げていた。残念ながら具体的な候補物質を見つけ出すことはできなかったが,研究過程において,多くの物理的知見や,実験的手法の改良を行うこともできた。また,本年度見出した結果は,国際会議(2件)日本物理学会(2件)において発表を行っており,学術雑誌へ論文投稿も予定している。現在は熱整流素子作製に向けての具体的な物質を現在探索中でもあることから今後は有望な物質を見出し,それを用いた熱整流素子の作製を行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
ひき続き,熱整流素子の素材物質の探索のため試料育成と物性測定を中心とした実験的研究を進めていく。試料育成はアーク溶解法,固相反応法(焼結法)により行っていく。アニール温度や焼結温度により,物性が大きく変わる試料においては,育成条件と熱物性の関係を詳細に調べ,今後の試料育成効率化への知見としたい。本研究の実験手法は,熱伝導率測定が中心であるが,購入する予定である直流・交流電流電圧源並びにナノボルトメータにより,現行より高精度な熱伝導率測定が可能である。本研究では候補物質の比熱,電気抵抗率,磁化等の基礎物性についても調べていく。実験手段によっては,全国の共同利用施設を利用する。最終的に本研究で見出した物質を基に熱整流素子の作製を行い,その熱整流比を決定する。
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