本研究は,多値メモリや様々なセンサデバイスへの応用が期待されている種々の室温マルチフェロイックフェライトについて,電場-磁場間の相互干渉を最小化することで複素誘電率と複素透磁率の個別精密測定が可能な矩形導波管空洞共振器を用いた共振器摂動法による材料定数(複素誘電率および複素透磁率)の精密評価を実施し,誘電率と透磁率の周波数依存性をそれぞれ個別に測定,比較することで,電磁気デバイス応用において重要であるにもかかわらず,いまだ解明されていない室温マルチフェロイックフェライトの高周波帯域における電気-磁気結合について明らかにし,それらの高速デバイス化の可能性を探索することを目的として研究を実施した. R4年度はSr-Co系Z型フェライトを中心として,粒子形態を制御したフェライト粉末を泥漿鋳込み法を用いて長尺棒状試料の作製を試み,共振器摂動法による複素誘電率の精密測定を試みた.研究開始当初に予定していた,矩形導波管を用いた誘電率・透磁率の同時測定は特殊な矩形導波管の入手および解析手法の構築が困難となったため,誘電率測定に特化した従来型の空洞共振器を用いた共振器摂動法により,複素誘電率測定を行った. その結果,本研究で作製したSr-Co系Z型フェライトは,これまでの同軸法で測定された比誘電率の2倍程度の誘電率を示した一方で,同軸法の誘電率スペクトルに観察されていた透磁率の減衰と同様の周波数依存性は観察されなかった.以上の結果から,従来の同軸法により得られていた複素誘電率・透磁率スペクトルから予測されていた2~3GHzにおける明確な電気-磁気結合は確認出来なかった.これは,マルチフェロイックフェライトを用いたメモリやセンサデバイスの高速動作を検討するうえで重要となる基礎的知見である.
|