研究課題/領域番号 |
17K06799
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
神田 一浩 兵庫県立大学, 高度産業科学技術研究所, 教授 (20201452)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アモルファス炭素膜 / 自由体積評価 / 局所構造評価 / 軟X線表面改質 |
研究実績の概要 |
研究計画に沿って実験を行い、下記の成果を得た。 1)1000~4000 eVのエネルギー範囲で高分解能分光測定のできるニュースバル放射光実験施設ビームライン05A(BL05A)において、シリコン含有ダイヤモンドライクカーボン(Si-DLC)膜のSi K端広域X線吸収微細構造(EXAFS)を測定するために広いエネルギー領域での光軸安定性とEXAFS測定用のプログラムの整備を行った。次年度以降、EXAFSの測定が可能である。 2)Si-DLC膜のSi-K端およびSi-L端吸収端近傍微細構造(NEXAFS)の測定を行い、Si-DLC膜のSi原子のイオン化エネルギーが、半導体Siもしくはa-Si:HのSi原子と近い領域にあることを見出した。 3)C K端NEXAFSの測定結果と比較することで、Si-DLC膜の組成の変化により、Si-DLC膜中のC原子の化学状態は大きく変化するが、Si原子の化学状態の変化はそれほど大きくないことを見出した。 4)原子炉から放出される低速陽電子を用いた陽電子消滅法により、膜厚数百nmのDLC薄膜中の自由体積の違いを測定できることを確認し、実験条件の最適化の検討に必要な情報を入手した。 5)陽電子消滅法の測定からDLC膜中の自由体積の大きさが密度に依存しないことがわかった。追試は必要であるが、これらは事前の予想と異なっており、DLC膜の自由体積における水素の役割について更なる考察が必要であることがわかった。 6)軟X線照射により、DLC膜の元素組成・C原子の局所構造だけでなく、膜中の自由体積が変化することを明らかにした。 7)DLC膜に含まれるヘテロ元素の種類により、軟X線照射による改質過程が異なることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シリコン含有ダイヤモンドライクカーボン(Si-DLC)膜中のSi原子の局所構造を決定するために必要な広域X線吸収微細構造(EXAFS)の測定には、広いエネルギー領域で光軸を安定する分光器の調整とエネルギー領域によってステップ刻みなどを変える測定プログラムの整備が必要であり、これを完了した。 Si-DLC膜中のSi原子の化学環境に関してSi-K端およびSi-L端NEXAFS領域の測定を行った結果、Si-DLC膜中のSi原子のイオン化エネルギーはSiO2、SiCよりも低く、金属Siもしくはa-Si:Hに近いことを明らかにした。また、Si-DLC膜の組成によりC原子の化学状態は大きく変化するのに対し、Si原子ではほとんど変化しないことを見出した。 京大原子炉の運転再開の許可が遅れたため、原子炉から放出される陽電子を用いた陽電子消滅測定は十分な実験時間を確保ができなかったために、装置準備が間に合わず陽電子寿命の絶対値測定はできなかったが、DLC膜を試料としてドップラー拡がりの測定から相対評価を行った。その結果、密度が少ないにも拘わらず水素含有量の多いDLC膜の方が、自由体積が小さいという観測結果を得た。また、平成30年度に予定していた軟X線照射によるDLC膜の自由空間の変化は前倒しで実施し、陽電子消滅法から軟X線照射によって自由空間が大きくなる結果を得た。 また、DLC膜の添加元素として炭素と同族元素で炭素骨格に組み込まれる可能性のあるSiと逆に、必ず炭素骨格をターミネートするフッ素を含有するDLC膜(F-DLC膜)について、軟X線照射実験を行って脱離種がフッ化炭素であること、数百nmの膜厚の全体からフッ素が脱離するなどの事実を見出した。これはDLC膜、Si-DLC膜と異なった過程であり、この違いがどのように生じるか今後検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に基づいて以下の実験を行う。 ① ニュースバルBL05AにおけるEXAFS測定の準備が整ったので、Si-DLC膜についてSi-K端EXAFSの測定を行う。組成の異なるSi-DLC膜ではSi原子の化学状態変化は大きくなかったが、物理構造(結合数・核間距離)が組成によってどのように変化するかを観測する。NEXFASの測定はSiウェハ上に製膜したSi-DLC膜を表面近傍の情報のみが得られる全電子収量法によって測定したが、EXAFS測定では膜内部の物理構造の情報が欲しいため、蛍光収量法を用いて測定を行いたい。そのためには、測定対象であるSiを含んだ基板を用いることができないため、基板から検討してSi-DLC膜を製膜する。現在、金属基板を検討している。 ② 陽電子消滅法を用いて、寿命測定よりDLC膜・Si-DLC膜中の自由空間を絶対値で観測する。組成・製膜法によって自由空間がどのように異なるかを観測する。特に事前予想と異なった水素含有率と自由空間体積の関係把握が重要であり、弾性反跳検出分析法による水素含有量の高精度測定を試みたい。 ③ X線反射法・ナノインデンテーション法を用いてDLC膜・Si-DLC膜の密度・硬度を測定し、これらの物性が自由空間、C原子Si原子の局所構造とどのような関係にあるかを議論する。 ④ 当初実験計画にはなかったが、本研究を進める中で自由体積・局所構造を変化させるために行った軟X線照射過程でDLC膜に含まれるヘテロ元素によって、その改質過程が異なることが明らかになった。この違いを解明する実験を新たに開始する。具体的にはまず、DLC膜・Si-DLC膜・F-DLC膜を試料として昇温脱離スペクトルを測定し、X線照射過程と対比させる形でその自由体積・局所構造変化について検討する。
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