研究計画に沿って実験を行い、下記の成果を得た。 1)ニュースバル放射光実験施設BL05Aおよび09Aを利用して、種々の製膜法で作成され、組成の異なるSi-DLC膜のSi K端およびC K端、Si L端のX線吸収分光(XAS)スペクトルを測定した。Si-DLC膜中のC原子の化学状態はSi/C組成比で大きく変化する一方で、Si原子の化学状態は組成によってほとんど変化しないことを見出し、Si-DLC膜中でSi原子はSi同士で結合するのではなく、C-Cの間に入る形でアモルファス構造骨格に存在することを突き止め、この結果を論文発表した。 2)京都大学複合原子力研究所研究用実験炉(KUR)のB-1実験孔に設置された低速陽電子ビームシステムに陽電子の寿命を観測する装置を立ち上げ、DLC薄膜を対象とした陽電子寿命測定に成功した。陽電子消滅(PAS)法では膜中に存在する空隙の評価が可能である。インデンテーション硬度の異なる4種類のDLC膜の陽電子寿命と電子運動量を反映するsパラメータの測定を行った結果、陽電子寿命は硬度が増加するにしたがって減少することを見出した。これは硬度の固いDLC膜ほど空隙のサイズが小さいと解釈される。Sパラメータも硬度の増加にしたがって減少する傾向にあるが、一部の膜ではこの傾向から外れるものがあった。これはDLC膜中の価電子のエネルギーが大きく異なる水素の影響と考えられる。 3)Si-DLC膜の軟X線を照射効果を検討するために多層膜鏡分光器を備え、軟X線領域で高輝度単色光照射が可能なアンジュレータビ-ムライン07Aの整備を行い、各エネルギーにおける照射光量を評価した。また、冷却水循環により室温程度で照射が可能な低温照射システムを作成した。
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