研究課題/領域番号 |
17K06801
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤原 忍 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (60276417)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 蛍光体 / 希土類元素 / フルオロクロミズム / 光物性 / 表面科学 / イメージング / 化学センサ / 蛍光センサ |
研究実績の概要 |
本研究は、外部からの刺激を受けて発光特性が変化するフルオロクロミズム現象を無機蛍光体において実現することを目的としている。初年度(平成29年度)は、表面微細構造を制御した無機蛍光体材料における界面化学反応とフルオロクロミズム特性との関係に注目して研究を進めた。具体的な材料として、CaWO4:Eu3+、Y2WO6:Eu3+、YVO4:Eu3+、Y-Eu系層状水酸化物の構造設計とプロセス開発を行った。さらには新物質の開拓を目指して表面構造を制御したHfO2:Ln3+薄膜のプロセス設計と発光特性の調査も行った。 CaWO4:Eu3+では、水熱法によりナノ粒子の凝集構造を有するマイクロ粒子を作製し、CaWO4母体の青色発光およびEu3+イオンの赤色発光の酸化還元応答性を調べた。その結果、青色発光と赤色発光では応答性が異なり、これらの発光の励起波長の違いから、紫(青色発光と赤色発光の混合)→青(赤色発光の消滅)の2色スイッチングと、赤色発光のみの明滅スイッチングといった多元的なフルオロクロミズム現象が発現することを見いだした。Y2WO6:Eu3+では溶液中での応答性があまり見られないのに対し、高温水素ガスと反応して発光強度が大きく減少し、空気(酸素)中で再加熱すると発光が復活することがわかった。常温の液相法により作製したY-Eu系層状水酸化物では、粒子表面への有機酸アニオンの吸着によって発光が大きく増強されることがわかり、その応答時間は数十秒と極めて短いものであった。2相ゾルゲル法により作製されたYVO4:Eu3+ナノ/マイクロ構造体では、表面光触媒作用に基づくH2O2への応答性が確認された。ゾルゲル法により作製したHfO2:Ln3+薄膜では、メソポーラス構造を導入することによって高い発光強度と高い比表面積を両立させた材料の合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、フルオロクロミック無機蛍光体の開発に向け、基礎ステージ(材料デザイン、合成実験、評価実験)から応用ステージ(固体光学素子の開発に向けた試験)へと段階的に研究を進める計画である。また、材料の種類に応じてそれぞれ副研究課題を設定し、多角的な視点からフルオロクロミズムの実現に関連した研究となるよう心がけている。 初年度では4種類の無機蛍光体材料について、材料デザイン、合成実験、評価実験の流れに従って研究を進めることができ、溶液中での酸化還元応答性に基づく2色間発光と発光明滅、気相中の水素ガスの存在に基づく発光明滅、過酸化水素の存在を検知する発光明滅、有機酸アニオンの存在を検知する発光明滅といった多元的なフルオロクロミズムの実現に至った。また、応用ステージに向けて、簡便に取り扱うことのできる薄膜材料においても、高い発光強度や高い応答性をもたらすための構造設計についてかなりの成果を得ることができた。薄膜材料を用いた酸化還元応答性については、連携研究者の協力を得て、有機色素を導入した無機半導体をモデル材料として、実際に物質中の電子移動がクロミズム特性につながるのかどうかを検証した。また、水素ガス検出能については、別の連携協力者の協力を経て、イオン伝導と欠陥生成の観点から応答機構を設計することができた。以上のように、当初計画の通り、本研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、フルオロクロミック無機蛍光体に関する研究のうち、特に実用的に有用な材料開発を進展させる。具体的には、4種類の希土類蛍光体(前年度のタングステン酸塩系およびバナジン酸塩系と、以前から研究を進めていたリン酸塩系および酸化セリウム系)の構造制御技術を深化させ、ナノ階層構造を有するマクロ粒子およびナノ構造薄膜を作製し、これらを用いて重金属イオン、過酸化水素、水素ガスなどに対する簡易な光センシングシステムを試作する。また、層状水酸化物系蛍光体においては、その層状構造を最大限に活かした機能設計を行う。とくに前年度の成果として、層状結晶の最表面に吸着するだけで発光効率が飛躍的に高まることが見いだされたため、比表面積の大きな蛍光体を合成し、種々の分子に応答するフルオロクロミズムの機能向上に関する研究を進展させることに注力する。 平成31年度は、光化学素子の開発と新規な無機蛍光物質の探索およびその合成プロセス設計を進める。とくに、平成30年度までに得られている蛍光体材料の種類に応じて、酸化剤・還元剤への応答、液相中での分子・イオンへの応答、気相中での各種ガスへの応答、およびこれらから派生すると予想される多角的な応答原理から、フルオロクロミズム機能の創出に関連した新たな基礎科学の確立と応用技術への展開を進めていく。また、フルオロクロミック無機蛍光体の使用環境にも注目し、耐熱性、耐薬品性、長期安定性など、有機物質に対する無機物質のアドバンテージを最大限に活かして、過酷な条件下でも使用できる光化学素子を提案していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国内旅費費用が想定額を下回ったこと、論文が投稿中で論文掲載料が次年度に回ったこと、の2点より次年度使用が生じた。なお、本来の次年度分の使用計画に変更はない。
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