無機蛍光体は蛍光灯や白色LEDなどに使われている発光材料である。本研究では、外部からの物理的あるいは化学的な刺激を受けて発光特性が変化するフルオロクロミズムという新たな機能を無機蛍光体に付与し、危険物質や有害物質を簡便かつ高感度にセンシングできるシステムや化学的な環境の変化を目視あるいは簡易な分光計でモニタリングできるシステムの構築を目指した。 最終年度には2つの大きな成果が得られた。1つ目はナノスケールで構造を制御したYVO4:Eu3+蛍光体を用いた過酸化水素の定量的なセンシングである。過酸化水素は殺菌技術への応用が期待されるが、安全に使用するためにそのセンシングは必須である。合成方法を工夫して得られたナノ構造のYVO4:Eu3+蛍光体は、過酸化水素水溶液にも空気中の過酸化水素分子にもそれらの濃度に応じた定量的な蛍光強度の減少がみられ、極めて良好な応答性を示すことがわかった。 2つ目はナノスケールで構造を制御し、さらに白金微粒子を担持したY2WO6:Eu3+蛍光体を用いた水素ガス検知である。本研究の初期の段階ではこの蛍光体を用いて水素ガスと反応させるのに700℃程度の高温が必要であった。前年度の研究で、白金微粒子の触媒効果により300℃程度まで応答温度を下げることができていた。今年度は、白金微粒子の担持方法と担持量を詳細に検討した結果、150℃で良好な水素ガス検知能力を発揮できる蛍光体を得ることに成功した。 以上の成果を含めて、研究期間全体を通して6種類以上の無機蛍光体について、構造制御、発光特性制御ならびに化学的な刺激に対するフルオロクロミズム機能の発現という成果を幅広く得ることができた。我々の周りにはセンシング対象となる危険物質や有害物質があふれている。今後も引き続き各種蛍光体を化学的に活性化させられるような構造制御を行い、さらなるセンシング特性の向上を図っていく。
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