研究課題/領域番号 |
17K06802
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
井上 亮太郎 日本大学, 医学部, 准教授 (50397626)
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研究分担者 |
岡澤 厚 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30568275)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 酸化物 / 還元 |
研究実績の概要 |
当初の予定では、平成29年度に酸化物中の遷移金属元素の価数制御技術を確立することを目指していたが、これはほぼ達成できた。具体的には、反応時間・反応温度・ヒドリド還元剤濃度などを系統的に変化させてFe(10 mol%):LiNbO3粉末試料を還元し、Mössbauer分光測定によって[Fe2+]率を調べた。研究開始時に既に得ていた予備的な実験結果を裏付け、かつさらに発展させることができた。[Fe2+]率ははじめ反応時間の平方根に比例して増加するが、還元剤過剰条件下で還元しているにもかかわらず、ある時間で飽和する。新たに得られた実験結果によって、飽和[Fe2+]率および飽和時間が、還元条件から予想できるようになった。 これらの実験過程において、粉末試料の実効的な粒径によって、飽和[Fe2+]率および飽和時間が大きく影響されることを発見した。これは当初予想していたことではなかったが、原因を考えることによって、還元機構についての新しい物理的モデルを確立することができた。平成30年度前半では、まずこれを論文にまとめ投稿する。 平成30年度後半では、これまで主に対象としてきた酸化物LiNbO3に加えて、BiFeO3やBaTiO3にも遷移金属元素をドープし、低温化学溶液還元を試みる。還元のしやすさから還元機構についての知見が得られると考えている。またこれらの酸化物は強誘電体としてよく知られており、還元によって導電性を付加することができれば、強誘電体ベースの太陽電池特性を劇的に向上できると期待する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
酸化物のモデル材料としてLiNbO3を選び、不純物としてドープしたFe元素の価数制御技術を確立することに成功した。具体的には、反応時間・反応温度・ヒドリド還元剤濃度などを系統的に変化させてFe(10 mol%):LiNbO3粉末試料を還元し、Mössbauer分光測定によって[Fe2+]率を調べた。[Fe2+]率ははじめ反応時間の平方根に比例して増加するが、還元剤過剰条件下で還元しているにもかかわらず、ある時間で飽和する。飽和[Fe2+]率および飽和時間が、還元条件から予想できるようになった。 これに加えて、制御技術を確立する過程で還元機構に関わる物理的モデルを確立することができた。 低温化学溶液還元には、(I)界面における還元反応と(II)還元によって導入された酸素空孔・電子の拡散という二つの過程が関わっていると考えられる。研究会氏当初は、 [Fe2+]率の飽和は、当初律速過程の切り替わりによって起こっていると考えていた。しかし、飽和[Fe2+]率および飽和時間が粉末試料の粒径によって変化することが明らかになり、律速過程の切り替わりに代わる物理的モデルの提唱が必要になった。幸いなことに物理的モデルが確立できたと思われるので、平成30年度前半でこれを論文にまとめ投稿する。そのために、当初の予定よりも早く論文が投稿できる見込みである。 このため当初平成31年度に予定していた論文投稿費用を平成30年度に前倒しして請求することにした。今後さらに研究が進展して別の論文を投稿できる事態になった場合には、学会参加費用を転用するか、大学の教育研究費など他の財源の使用も検討する。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度前半は、新たに確立した還元機構の物理的モデルの提唱に関する論文の投稿・掲載に専念する。 平成30年度後半からは、酸化物全般の低温還元技術というより幅広い視点から、酸化物遷移金属不純物をドープした酸化物強誘電体全般の還元を試みる。これまで主に対象としてきた酸化物LiNbO3に加えて、BiFeO3やBaTiO3にも遷移金属元素をドープし、低温化学溶液還元を試みる。これらはイルメナイト型もしくはペロブスカイト型という類似した結晶構造を取る酸化物であり、擬酸素八面体構造の中心にある金属元素によって還元のしやすさが変わってくると予想できる。ヒドリド還元剤を用いた低温化学溶液還元のしやすさを調べることによって、還元の電子的な機構について知見が得られると考えられる。またこれらの酸化物は強誘電体としてよく知られており、強誘電体ベースの太陽電池応用も期待されている。還元によって導電性を付加することができれば、強誘電体ベース太陽電池としての特性を劇的に向上できる。 平成31年度からは、還元機構のさらなる解明に向けて、二元遷移金属酸化物の還元を試みる。この場合には、結晶構造を構成している遷移金属元素を還元することになるので、遷移金属元素をドープした酸化物よりも還元が難しくなると予想される。合わせて酸化物強誘電体の光電変換機能増強や酸化物高温超伝導体の超伝導転移温度制御などのデモンストレーションを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬を消耗品として購入し使用する予定だったが、年度末までの納品が間に合わず断念した。2018年度の物品費と合わせて使用する予定である。
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