平成29年度に、酸化物LiNbO3中にある遷移金属元素Feの価数を低温化学溶液還元によって制御することに成功した。これは当初の予定通りであったが、その過程で予想していなかった実験結果を得た。その原因を考えることによって、還元の制御機構について新しい物理的モデルを構築し、研究計画を前倒しして平成30年度からこの物理的モデルについて論文を投稿する予定を立てた。しかし、データ解析の定量性に問題が生じ、論文を投稿できなかった。合わせてコロナ感染拡大によって研究以外の業務が増大し、事業期間の再延長・再々延長を申請するに至った。実験的にはICP発光分析によるFeの定量と数値計算を進め、問題解決のめどはある程度たったのだが、最終的に論文投稿に至らずに研究期間の終了を迎えてしまった。 平成30年度後半から、低温化学溶液還元技術の更なる開発を行った。これまで中心的に研究してきたLiNbO3に加えて、BiFeO3やBaTiO3などの酸化物にFeやMnなどの遷移金属元素をドープし、低温化学溶液還元によって価数制御を試みた。どの粉末においても還元には成功したが、まだ系統的な実験結果を得るに至っていない。今後の研究のためにはFe以外の遷移金属元素の価数決定のために、メスバウア分光測定に加えて、電子スピン共鳴分光測定なども併用していく必要がある。 令和3年度から電子ドープ系酸化物高温超伝導体Nd1.85Ce0.15CuO4を合成し低温化学還元を行って超伝導発現を目指した。この物質では結晶構造の劣化を避けるために比較的弱いヒドリド還元剤を使用した。低温での磁化率測定および比熱測定では系統的な変化が得られており、化学溶液還元自体には成功したが、残念ながら超伝導発現には至らなかった。さらに還元を進めるためには、今後さらに還元条件を検討する必要がある。
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