研究課題/領域番号 |
17K06804
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
高橋 昌男 東京工科大学, 工学部, 教授 (00188054)
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研究分担者 |
茂庭 昌弘 東京工科大学, 工学部, 教授 (50704623)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 複合アニオン化合物薄膜 / 電気化学的酸化 / 絶縁体薄膜 / 低温薄膜創製 / 抵抗変化型メモリ / 価電子制御 |
研究実績の概要 |
室温の大気圧下、有機溶媒中の電気化学的酸化反応により基板金属表面に複合アニオン化合物薄膜層を形成し、高速で省エネルギー型の次世代メモリとして注目されている抵抗変化型メモリ(ReRAM)のような電子デバイスに実装可能な新規の絶縁体薄膜への適用性を調べた。 令和元年度においては、平成30年度までに検討してきた様々な金属および有機溶媒のデータを整理し、アンモニア水や水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を添加したメタノール溶液中でタンタル(Ta)金属を電気化学的酸化することで最も良好なReRAM特性(作製した絶縁体膜上に電極を形成した<金属/絶縁体膜/金属>構造の電流-電圧特性)を発現する可能性が高いことを見出した。この結果を踏まえ、メタノールに添加する水酸化テトラメチルアンモニウムの濃度、溶液中の水分量、印加電圧などを詳細に調べ、数mMの低濃度の水酸化テトラメチルアンモニウムのメタノール溶液を用いると溶液中の水分量によって生成膜中の酸素欠損量(あるいはTaの形式電荷)を制御できることを見出した。化学種の酸素欠損量は抵抗素子としての動作中に生成(及び消滅)する導電経路(フィラー)として重要な役割を果たす。これらのことは、電子デバイスの制御に欠かせない化学種の酸素欠損量を制御した薄膜を電気化学的酸化法により室温で創製できることを示している。また、265 nmの紫外光照射により、得られた薄膜が室温で586 nmの蛍光発光特性を有することも見出した。さらに、電子デバイスとしての電気特性に与える基板表面の平滑さを調べ、一般的に知られているように平滑さが増すことにより電子デバイスとしての安定性が増すこと、一方、これまでに作製した薄膜の表面荒さでも電子デバイスとしての動作に大きな影響は与えないことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電解質として水酸化テトラメチルアンモニウム、アンモニア、フッ化アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、チオ尿素、ヘキサメチレンテトラミンなどの様々な物質を、有機溶媒としてメタノール、エタノール、2-プロパノールなどを用い、種々の組合せで有機得溶液を調整した。調整した有機溶液中、対極と参照極に白金を用いて、タンタル、チタン、ニッケル、銅、亜鉛などの金属基板表面に電気化学的酸化処理を行ったデータを整理した。その結果、アンモニアまたは水酸化テトラメチルアンモニウムをメタノール中に溶解した有機溶液を用いてTa基板表面を電気化学的酸化した絶縁膜が、最も良好な抵抗変化型メモリ(ReRAM)特有の電気特性を示すことを見だした。 アンモニアや水酸化テトラメチルアンモニウムの濃度および有機溶液中の水分量に着目して詳細な検討を行った結果、1.5 mM程度の水酸化テトラメチルアンモニウム/メタノール溶液を用いることでオキシ窒化タンタル(TaOxNy)が室温で生成した。生成したオキシ窒化タンタルの組成(Taの形式電荷)は有機溶液中の水分量で制御できることを見出した。つまり、電気化学的酸化で生成する生成物層中のTaの形式電荷と反応溶液中の含有水分量との間に相関があり、含有水分量が少ない場合には酸素欠損量が大きくなる(Taの形式電荷が5価から減少する)と結論できた。 また、可視・紫外吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルからギャップ内準位が観測された。このギャップ内準位は薄膜中の酸素欠損量と関連していると考えている。 電気化学的酸化法という極めて省エネルギーのプロセスでReRAMに適用可能な絶縁体薄膜が創製できることを見出し、当初計画を概ね達成しているが、作製した絶縁体薄膜を用いたReRAMへの展開まで達成したく、課題を延長している。
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今後の研究の推進方策 |
タンタル(Ta)表面の電気化学的酸化により形成するオキシ窒化タンタル絶縁体薄膜を用いた抵抗変化型メモリ(ReRAM)の電気的特性の向上のために、1)薄膜形成後のポスト処理の精密化と2)基板表面の平滑さに着目して研究を進める。これまでの研究成果から、メタノールを有機溶媒に、テトラメチルアンモニウムを電解質に用いた有機溶液が最も有望な電気化学的酸化用の溶液であることが分かっているので、この溶液を用いて研究を展開する。 400℃程度あるいは400℃以下の低温でのポストアニール処理による薄膜中のOH基の変化と電気的特性の関連を調べる。また、アニール処理だけでなく無水極性溶媒中での電圧印加処理も検討する。後者では電圧印加によるデバイス特性への影響が課題となるので、デバイス特性の向上の点から綿密な検討が必要と考えている。一方、加熱処理が不要になれば、本研究のねらいである低消費エネルギーのプロセス開発には大きな成果となる。 一般的な電子デバイスとしての展開のために、また、高い平滑性を持つ絶縁体薄膜形成のために、シリコン(Si)基板上に電気化学的におよび真空蒸着により形成したTa膜表面を電気化学的酸化して絶縁体薄膜を形成する。作製した<金属/絶縁体薄膜/Ta/Si>構造の電気的特性が向上する絶縁体薄膜形成条件を検討する。 以上の研究を通じて、電気化学的酸化処理による電子デバイス用新規絶縁体薄膜作製とReRAMデバイスへの展開・総括を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究がほぼ順調に進み、得られた研究結果を基にReRAMデバイス応用研究を継続して行うことで、研究成果の展開を促進できる状態になった。令和元年度で予定していた支出の一部を次年度に残すことで、この展開研究を行いたい。 令和2年度の経費使用は次のように計画している。半導体グレードの超高純度薬品類および超高純度ガス(ポスト処理)、電極用金属蒸着源、薄膜形成真空装置用の液体窒素、真空部材(ReRAMの特性評価)などの物品購入および旅費(研究集会や放射光実験施設往復)などの経費として使用する。
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