研究課題/領域番号 |
17K06808
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
古賀 健司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (30356969)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 半導体酸化物 / ガスセンサ / 形態 / 水素 / 貴金属 / 複合化 / 電気抵抗 |
研究実績の概要 |
p型半導体である酸化コバルトのナノ粒子の堆積膜の水素センシングについて研究を行った。試料作製は以下の通り行った。Coターゲットへのレーザーアブレーションによって、He気流中にサイズ数十nmの金属Coナノ粒子を発生、それらを気相中で熱酸化させることでCoOへ酸化させるが、酸素暴露の条件を変化させることで、CoOのナノロッドまたは中空粒子を生成させた。これらの粒子堆積膜を大気圧の乾燥空気フロー中で200℃に加熱した状態で電気抵抗値(R0)をモニターし、段階的に異なる濃度(1~1000 ppm)の微量水素を含んだ乾燥空気フローに曝した際の電気抵抗値(Rg)との比Rg/R0をセンサ応答として評価した。その結果、異種形態間で大きな違いは見られなかった。測定後に膜の一部をサンプリングし、形態を調べた結果、測定前の個々の形態は良く保存されていたが、測定前後で粒子の結晶構造がCoO相からCo3O4に変化していたことが電子回折により判明した(センサ測定温度において、大気圧の乾燥空気中の酸素によりCoO相が酸化されたため)。 以上の結果を踏まえ、次に、粒子サイズを1桁程度減少させる効果を調べた。センサ測定において、Co3O4相となってしまうことから、粒子生成時にCo3O4相を得ていても良いので、Coターゲットに対してレーザーアブレーションを行う際に、ヘリウム・酸素混合ガスを導入した。その結果、平均3 nm程度の多数のCo3O4ナノ粒子が緩く結合した凝集体が生成できた。その凝集体の堆積膜の水素センシングを調べた結果、サイズの大きなナノ粒子の堆積膜の場合よりも応答特性が優れていることがわかった(測定温度125℃、水素濃度1000ppmでの比較で、10倍弱の高い応答と抵抗値のより早い復帰)。以上の結果から、センサ応答は、粒子形態よりも粒子サイズに支配的であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、酸化コバルトのナノ形態が水素ガスセンシングに及ぼす影響を調べることは本研究課題の主要な1つであったが、予想外にその効果が希薄であることが明らかとなった。その点で、今年度は酸化物形態を主軸とした成果のまとめは困難であったために、達成度としては、やや遅れている。その原因が当該酸化物に特有の結果であった可能性もあるが、研究実績の概要に記載のとおり、当該酸化物に関しては、形態の違いによる効果よりも、サイズの違いによる効果の方が著しいことが明らかとなった。そのため、現時点で最良のセンサ応答が得られる、数nmのサイズの粒子についてターゲットを絞るのが妥当であると判断した。今後は、本研究課題のもう1つの重要なテーマである貴金属や他の酸化物の接合効果を調べることで、センサ応答の増強要因を実験的に探ることへ力点を移動させた研究を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
形態制御を施した酸化コバルトナノ粒子の堆積膜の水素応答特性では、大きく形態を変化させたにも関わらず、その効果が希薄であったが、本研究では、貴金属ナノ粒子や他の酸化物ナノ粒子の接合効果を調べることも重要な目的である。現在、数nmの酸化コバルトナノ粒子の堆積膜が得られているので、個々の粒子に1nm程度またはそれ以下の微小な貴金属ナノ粒子(クラスター)を接合させた効果について調べることを目指す。そのような極微小の異種粒子の接合効果については、当該研究分野では詳細な研究例は少ない。研究代表者は、これまでに、気相中に生成させた貴金属と卑金属との合金ナノ粒子を熱酸化させることで誘起される相分離現象によって、貴金属と酸化物が接合した複合ナノ粒子を気相中に生成させることを実証している。今後は、金属Coターゲットに様々な貴金属(Au, Pt, Pdなど)を1~5at.%程度混合した合金ターゲットを原料として、その酸化雰囲気におけるレーザーアブレーションによる複合粒子の生成を試みる。研究実績に記載のとおり、金属Coターゲットを原料として、3nm程度の酸化コバルトナノ粒子が緩く結合した凝集体が得られているので、Coと貴金属の合金ターゲットを用いることで、酸化雰囲気中のアブレーションプラズマの中で、微小な合金ナノ粒子が一瞬で酸化されることで、3nm程度の酸化コバルトナノ粒子の表面に極微細な貴金属ナノ粒子が担持された状態となることが期待できる。今年度は、個々の酸化コバルトナノ粒子上の極微細な貴金属ナノ粒子(クラスター)との複合状態をHAADF-STEM観察によって確認する。次に、これらの堆積膜の水素センサ応答を計測し、応答の大きさ、応答速度などの詳細について、酸化コバルトのみの場合と比較する。
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