昨年度までに得られた結果は以下の通りである。Co3O4またはPdが1-20 at.%(金属元素組成)担持されたCo3O4ナノ粒子(約3 nm)のポーラスな凝集体で構成された膜を作成した。担持されたPdの化学状態をXPS測定より求めた結果、4価または2価であった。Pdの形態は、HAADF-STEM観察より、5 at.%までは単原子状、それ以上ではPdOxクラスターが共存し、20 at.%ではほぼクラスターのみであった。膜の水素センシング性能を測定した結果、応答の大きさはPd単原子が最も高濃度の5 at.%のとき極大となり、応答速度も極大となった。今年度は、価電子帯領域のXPS測定を行った結果、Pd単原子からCo3O4ナノ粒子への電子移動が明らかとなった。その過剰な電子によって吸着酸素量が増大しているとすると、応答の極大を定量的に説明できた。応答の極大を示す、単原子Pdが担持された試料について、水素センシングと同環境条件において、その場XANES測定を行った。その結果、希薄水素含有の乾燥空気に曝すと、約10%の4価のPd原子が2価へ変化し、乾燥空気へ戻すと再び元の状態に戻った。これは、4価のPd原子が触媒として働き、応答速度を促進させる触媒サイクルを直接観測しているものと考えられる。また、EXAFS測定から、Co3O4ナノ粒子表面に担持されたPd単原子には、2個程度の酸素イオンが吸着しており、水素センサ特性の向上に重要な役目をしていると考えられる。 以上、本研究では、気相法を駆使することで、担持貴金属のサイズを単原子から数nmのサイズまで変化させた試料を非常に良く制御し生成し、そのガスセンサ特性について、担持貴金属のサイズによる特性依存性を定量的に解明することができた。構造・機能相関を精密に調べたことで、ガスセンサのメカニズム解明に貢献した意義は大きいと思われる。
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