研究課題/領域番号 |
17K06815
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
星野 勝義 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (50192737)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 金属調光沢 / オリゴチオフェン / ラメラ結晶構造 / 塗布膜 / 電解重合膜 / 導電性ポリマー |
研究実績の概要 |
平成29年度研究計画・方法に従い、29年度に既に合成が完了していた原料(3位の位置にエトキシ基、プロポキシ基、及びブトキシ基を有するチオフェン)の酸化重合を行い、各オリゴマーの形成を行った。その結果、これまで利用していた3-メトキシチオフェンオリゴマーの塗膜が金色を呈していたのに対して、3-エトキシチオフェンオリゴマーで銅色、3-プロポキシチオフェンオリゴマーでマゼンタ色、そして3-ブトキシチオフェンオリゴマーで黒色を呈する結果となった。以上のアルコシキ基によって色調に違いが生じた原因として、アルコキシ基の電子供与性の違い、重合度の違いによる共役長の違い、発色団であるポーラロン・バイポーラロン濃度、すなわちドープ率の違い、そして分子配向の違いが挙げられる。そこでこれら4つの要因の検討を行ったところ、各オリゴマーに対して最初の3つの物性に違いが無いことが判明した。そこで、薄膜X回折測定により上記4種の分子配向の検討を行い、最後の要因の検討を行った。その結果、4つの塗膜の唯一の違いが、オリゴマーが形成するラメラ結晶の層間距離であることが判明した。置換基の長さが、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、そしてブトキシと長くなるにつれ、ラメラ層間距離は、1.13 nm、1.27 nm、1.37 nm、そして1.57 nmとなることが明らかとなった。すなわち、各塗膜の色は層間距離により決定されることがわかった。 次に、29年度計画であったラメラ結晶の観察を実施した。走査型電子顕微鏡および原子間力顕微鏡観察を行い、膜厚方向に棒状結晶が分布していることを観察することができた。さらに、同じく29年度からの計画である3-メトキシチオフェンオリゴマーとポリエステルのポリマーアロイを作成し、その反射率、分子配向、及び機械的強度に関する一連のデータを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度研究項目①(a)(ドーパントアニオンを変えてラメラのスタッキング距離を変え、光沢膜物性に与える影響を検討する項目)については、ドーパントアニオンをこれまでの過塩素酸イオンから四フッ化ホウ酸イオンに変えて電解重合膜を形成したところ、光沢度(正反射率)および色調とも、金属金により近い金色調光沢膜を作製することができ、論文報告に至った。また、平成30年度継続項目である研究項目①(b)(チオフェンの3位の位置に結合させるアルコキシ置換基の長さを変え、光沢膜物性に与える影響を検討する項目)については、ほぼデータを取り終え、論文執筆に取りかかれる予定である。研究項目②(電子顕微鏡および原子間力顕微鏡によるラメラ結晶の観察)は予定通り、平成29年には観察条件を決定し、まずは画像を取得できた。30年度にはその結晶の高感度観察と解析を行う予定である。研究項目③(a)(チオフェンオリゴマーとポリエステル樹脂のアロイを形成し、その物性を評価する)においては、予定通り、アロイ塗布膜のX線回折測定、X線光電子分光分析測定、エネルギー分散型X線分析、および断面の走査型電子顕微鏡観察を終え、平成30年6月に学会発表を予定している。最後の研究項目③(b)(チオフェンオリゴマーとポリエステル樹脂以外の樹脂とのアロイを形成し、その物性を評価する)においては、29年度に既にアクリル樹脂を用いて開始している。これについても非常に興味深い色調と光沢を有するアロイを形成できるところまでを確認したので、他の樹脂の利用を含め数種のアロイ作製を行い、予定通り平成31年度に論文報告を行う。 なお、平成29年度の検討を進める内に、3-メトキシチオフェンオリゴマーが既に塗布液の状態で規則構造を取ることが見出されたのでそれを追求し、論文報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、3つの大きな検討項目を設定したが、いずれも順調に進展している。そして、その項目を進める過程で、予期せぬ興味深い化学現象を見出すことができた。すなわち、チオフェンオリゴマーは、膜状に製膜したときに初めてラメラ結晶を形成し、金色調光沢を発現すると考えていたが、既にオリゴマーの塗布液の段階で規則構造が時々刻々と形成されることを見出した。この発見は、研究計画全体に影響を及ぼすものである。 研究項目①(a)では既に論文報告を行うことができ、①(b)では順調にデータを取得することができたので、予定通り30年度にデータ補完とそのまとめを行い、論文報告を行う。 研究項目②については、平成30年度の進捗が重要になる。結晶観察と解析というデリケートな内容となるので、電子顕微鏡を専門とする研究協力者と綿密に計画し、遂行する。 研究項目③においては、チオフェンオリゴマーとポリエステルあるいはアクリル樹脂とのアロイ膜形成とその化学分析についてのデータは着々と取得しつつある。その化学分析データに加えて、結晶観察と解析を加え、平成30年度にはまずポリエステルとのアロイ膜の速報を行い、平成31年度には他の樹脂のデータも加え論文報告を行う予定である。
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