研究課題/領域番号 |
17K06820
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研究機関 | 足利工業大学 |
研究代表者 |
小林 重昭 足利工業大学, 工学部, 教授 (00323931)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 粒界工学 / 疲労破壊 / フラクタル / ニッケル / フェライト系ステンレス鋼 |
研究実績の概要 |
多結晶金属材料において生じる粒界腐食、粒界偏析、粒界破壊のような材料劣化現象は、粒界エネルギーが高いランダム粒界を優先形成場所として発生する、またはそれらを経路として伝播する。一方、粒界エネルギーが低い低角粒界および対応粒界はこれらの材料劣化現象に対して高い抵抗を示すことが明らかにされてきた。これらの知見を踏まえた粒界設計・制御によるバルク材料の諸特性の向上に関する研究は、粒界工学として国内外で研究が進められてきた。従来の粒界工学では、粒界性格分布(異なる性格をもつ粒界の存在頻度)を評価・制御因子として用いてきたが、これに加えて異なる特性をもつ粒界の空間幾何学的分布を評価・制御することにより、より精密な材料特性の予測・向上が可能になるものと考えられる。 平成29年度は、高温構造材料の母材として用いられているニッケルについて、加工熱処理法および電析法ナノ結晶試料からの熱処理による組織制御の2種類の材料プロセスにより結晶粒組織と粒界性格分布を大きく変化させた試験片を作製した。これらの異なる材料プロセスから得られたすべての試験片におけるランダム粒界の空間幾何学分布が、フラクタル解析により定量化できることを示した。ランダム粒界の空間幾何学分布のフラクタル次元と従来の微細組織因子との相互関係を調べ、ランダム粒界の密度(単位面積当たりの長さにより評価した)が高い試験片ほど、ランダム粒界の空間幾何学分布のフラクタル次元が高くなるという関係をもつことを明らかにした。さらに、硫黄の粒界偏析により引き起こされるニッケルの脆化とランダム粒界の空間幾何学分布の関係を調べた。ランダム粒界の空間幾何学分布のフラクタル次元が低い試験片において、粒界偏析脆性が抑制される可能性が示された。 さらに、SUS430鋼の疲労破壊に対する粒界の役割について、破壊のその場観察に基づく基礎的知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般的な加工熱処理法による組織制御と、電析ナノ結晶試料の熱処理による組織制御の2種類の材料プロセスにより、ニッケルの微細組織を大きく変化させることを検討した。加工熱処理では、ニッケルの焼鈍材を低圧下率の冷間圧延後、1273K前後の温度で焼鈍することにより、平均結晶粒径とランダム粒界の存在頻度を大きく変化させた試験片が得られた。これらのすべての試験片について、試験片表面におけるランダム粒界の空間幾何学分布がフラクタルであることを明らかにした。フラクタル次元は、約1.3から1.7次元の範囲であった。また、ランダム粒界の密度が高い試験片ほど、高いフラクタル次元をもつことを示した。電析ナノ結晶試料を出発材とした試験片では、673K以下で焼鈍した場合には均質な結晶粒組織が得られたが、773K以上での熱処理により微細結晶粒と粗大結晶粒が混在したバイモーダル組織になることがわかった。これらの試験片の表面におけるランダム粒界の空間幾何学分布もフラクタルであることがわかった。フラクタル次元は、約1.3から1.5次元の範囲であった。以上により、ニッケルにおけるランダム粒界の空間幾何学分布は材料プロセスに関わらずフラクタル解析により定量化できることがわかった。さらに、硫黄の粒界偏析により引き起こされるニッケルの脆化とランダム粒界の空間幾何学分布の関係を調べた。ランダム粒界の空間幾何学分布のフラクタル次元が低い試験片において、粒界偏析脆性が抑制される可能性が示された。 以上のように、平成29年度は申請書の「研究の目的」および「研究計画・方法」欄に記載した内容を概ね達成することができた。ニッケルの粒界空間幾何学分布と粒界偏析脆性の関係については今後も研究を継続する。さらにSUS430鋼の疲労破壊に及ぼす粒界の影響についても基礎的実験を開始した。以上により、本研究は概ね順調に進んでいるものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度も申請書の「研究の目的」および「研究計画・方法」欄に記載した内容に沿って研究を推進する。ニッケル試験片については、ランダム粒界の空間幾何学分布のフラクタル次元と粒界偏析脆性との関係を継続して調べ、本手法の有効性を明らかにする。 SUS430ステンレス鋼の粒界制御に対し、再結晶集合組織形成との関連に基づいて粒界空間幾何学分布の制御方法を検討する。集合組織の種類と配向度に依存した高頻度の低角粒界と対応粒界の導入を試みる。ニッケル試験片に対して得られた結果と合わせ、フラクタルを用いた粒界空間幾何学分布の定量化方法の一般性を明らかにする。 さらに、平成29年度において、SUS430鋼の高サイクル疲労破壊過程における粒界の役割を定量的に明らかにした。その結果、疲労き裂の形成と進展が、低角粒界および対応粒界の存在頻度と幾何学的配置に強く依存することを明らかにした。したがって、SUS430鋼において粒界空間幾何学分布の制御は高サイクル疲労破壊の抑制に対して有効であると考えられる。粒界空間幾何学分布のフラクタル次元の異なる試験片について高サイクル疲労特性を比較する。 フェライト系ステンレス鋼における再結晶集合組織は、プレス成形性の指標となるランクフォード値(r値)が大きい鋼種ほど顕著に発達することが報告されている。そこで、SUS430鋼に比べr値の大きいSUS409L鋼およびSUS436鋼に対し、冷間圧延と焼鈍による再結晶集合組織の発達と、それに伴う高頻度の低角粒界および対応粒界の導入の可能性を検討する。これらのフェライト系ステンレス鋼についても、フラクタル解析による粒界空間幾何学分布の定量化方法の確立を目指す。 スパッター金薄膜について、表面エネルギー駆動結晶粒成長による集合組織の発達と粒界の形成について検討する。フラクタルによる粒界空間幾何学分布の定量化の有効性を検討する。
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