結晶粒界は、隣接する結晶粒の相対方位差などによって記述される粒界性格により異なる特性を示す。このような粒界の制御に基づく材料の高性能化に関する研究が、粒界工学として進められている。これまでの粒界工学では、異なる性格をもつ粒界の存在頻度を統計的にまとめた粒界性格分布を評価・制御因子としてきた。これに対して本研究は、対象とする材料特性に応じて、特定の種類の粒界について空間幾何学的分布をフラクタル次元評価に基づいて定量化・制御することで、材料の特性・寿命をさらに精密に予測・向上する新しい手法を確立することを目的としている。 前年度までに高頻度の低角粒界の導入に基づく粒界工学の可能性を示してきたフェライト系ステンレス鋼に対して、粒界腐食の優先経路となるランダム粒界の空間幾何学的分布の定量化を試みた。異なる平均結晶粒径および粒界性格分布をもつSUS430およびSUS436Lフェライト系ステンレス鋼に対して、ボックスカウント法を用いたフラクタル次元評価を行った結果、いずれの試料においてもランダム粒界の空間幾何学的分布は、フラクタルであることが明らかになった。特に、ランダム粒界の存在頻度を低下させた試料において、フラクタル次元も低くなる傾向にあることを示すことができた。SUS436L鋼に対して粒界腐食試験を行い、ランダム粒界の空間幾何学的分布のフラクタル次元が低い試験片ほど高い耐粒界腐食性を示すことを明らかにすることができた。 研究期間全体を通じて、研究計画で掲げたフラクタルを用いた粒界の空間幾何学的分布の定量化の一般性を、異なる種類およびプロセスで作製した材料について示すことができた。また、粒界の空間幾何学分布のフラクタル次元を制御するための制御プロセスの基本指針を得ることができた。疲労特性および粒界腐食のようなバルク材料特性の精密な予測・制御に対する本手法の有効性を示すことができた。
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