紫外線(UV)ランプにより生成した活性酸素種(励起一重項酸素分子、酸素ラジカル、ヒドロキシラジカル(OH*))を用いた滅菌装置の開発で得た知見をもとに、エネルギーの高いUVを通さない滅菌バッグの中でもポリスチレン(PS)製の細胞培養基板の表面改質と滅菌が一工程で達成できるというPS製細胞培養基板の低ダメージ表面改質技術について検討した。本研究では滅菌バッグ内で寿命の短い活性酸素の挙動とPS表面での反応、及びPS表面の官能基と細胞接着性の関係を調べると共に、細胞の接着・伸展により効果的な条件を見出すために、高湿度環境下での表面改質による親水性官能基の導入について検討し、細胞の接着・伸展に優れた細胞培養基板の創成に取り組んだ。 (1)表面処理条件の検討: アンモニア (NH3) と窒素で満たした装置内にPSを設置し紫外線を照射して改質をすることにより、表面に窒素を含む親水性の付与を図った。さらに改質後細胞培養を行い、細胞接着性について検討した。処理後、窒素がPS表面に導入され、表面の親水化が進んだことは確認できたものの、処理後の基板上で細胞培養した結果、初期接着は良好であったがその後、細胞は剥離したことから、必ずしも細胞培養に効果的な処理法ではないとの結論に至った。 (2)活性酸素の表面作用量の計測と、滅菌バッグ内での化学反応の解明: UVをほとんど透過しない不織布内で酸化力のとくに高いOH*がどのような反応で生成し、PS表面に作用しているのかを調べた。活性酸素の中でも寿命は長いが比較的に酸化力の低いオゾンが不織布を通り、不織布内の水分子と反応することでOH*か不織布内で生成していると結論付けた。また、高湿度下で生成される活性酸素種(主にOH*と考えられる)を照射したときのみ反応する色素薄膜インジケータにおいて、OH*を選択的に検知する機構について解析した。
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