研究課題/領域番号 |
17K06826
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研究機関 | 鈴鹿工業高等専門学校 |
研究代表者 |
兼松 秀行 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (10185952)
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研究分担者 |
平井 信充 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (50294020)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グラフェン / グラファイト / バイオフィルム / ラマン分光 / クリスタルバイオレット / 大腸菌 / 表皮ブドウ球菌 |
研究実績の概要 |
初年度においては,CVD法によりガラス上に形成させた単層グラフェン,5層グラフェン,グラファイトを外部の企業に委託して試料として用意し,そのバイオフィルム形成挙動を,フロー型のバイオフィルムリアクターを用いて調べた。グラフェンおよびグラファイトはそれぞれラマンシフトにおいて,2700カイザー付近の2Dバンドピークと1600カイザー付近のGバンドピークが特徴であり,単層グラフェンが完全に形成されると,2Dバンドピークが顕著となる。このような受け入れ状態のままの飼料についてバイオフィルムを形成させると,グラファイト上においては,バイオフィルムが形成されにくく,一週間浸漬させた状態でも,元々の材料の2DバンドピークとGバンドピークが消えなかった。しかし,グラフェンを形成させた試料については,1日浸漬の場合でも,2Dバンドピーク,Gバンドは完全に消え去り,バイオフィルム由来のピークが認められるようになった。この事実から,グラフェンは当初の予想と反して,極めてバイオフィルム形成が起こりやすい材料であることが示唆された。これを確かめるために,別のグラフェン作製法として知られるテープ剥離法を用いて,グラフェンの作製を試みた。バイオフィルム形成は,フロー型の時に用いた環境細菌(常在菌)ではなく,代表的なグラム陰性菌の大腸菌とグラム陽性菌の表皮ブドウ球菌であり,バイオフィルム作製は,静置法(Pipet法)によって作製された。機械的なテープ剥離法によると,剥離回数が増加すると,転写されたグラファイトは次第に薄層になっていき,グラフェンに近づいて行く。剥離回数の増加とともに,グラフェン形成への傾向が認められ,バイオフィルム形成についての感受性が高くなることがこの方法によっても認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラフェンはバイオフィルムを形成しやすいか,あるいは形成しにくいかについての最終的な確定については,初年度の実験事実を待たなければならなかった。当初バイオフィルム形成が起こりにくいことが予想された。この場合,感染がグラフェン上では起こりにくいことを意味するため,インプラント等の生体材料に抗バイオフィルム材料としての使用が考えられた。しかし,実際には極めて高い感受性を有することがわかった。当初から,予備実験を通じて,この結果が出た場合の今後の計画についても構想していた。それはグラフェンのセンサーとしての応用である。バイオフィルムセンサーとして,例えばインプラントのような体内に挿入する材料のバイオフィルム形成については,感染センサーとして,また体外の,バイオフィルムが引き起こす様々な材料の腐食とか,材料劣化についてのセンサーとしても用いることができる可能性がある。このグラファイトのセンシングについては,現在までの進捗状況では,ラマン分光による解析とクリスタルバイオレットによる染色の二つが想定される。後者は視覚に近いと言われるLab色差系を用いて定量的に評価することが可能となった。一方で前者については,定性的にはその進行度を評価することは比較的容易であるが,定量性に欠けるのが現在のところの欠点である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の結果から,グラフェンは極めてバイオフィルムを形成しやすく,センサーとしての応用が期待される。センサリングの現在の有望な選択肢は,ラマン分光分析とクリスタルバイオレットによる染色法であるが,どうしても間接的な測定法であり,評価に時間差があり,また最終的な結果を得るために時間がかかることが問題として残っている。より直接的に,in situに,また定量的かつ迅速な測定法として,次のいくつかの方法を候補として考えている。 #1: 電気化学的な手法としてのクロノアンペロメトリー法をグラフェン上へのバイオフィルム形成に適用し,センシングを行う。 #2: 細胞間インピーダンス測定装置を用いたバイオフィルム間のセルインピーダンス測定をグラフェンを使って行うこと。 これらの応用検討を,従来のラマン分光法あるいはクリスタルバイレット法による結果と比較検討しながら,センサーとしての応用可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の研究結果から,いくつかの予想に反した,しかしながら有益な結果がいくつか得られた。これを本来の目的にたどり着くための工夫をするため,いくつかの備品あるいは消耗品を特別に計上する必要が出る可能性が予測されたため,使用額に際が生じた。しかし,年度始めにおいて,詳細に検討した結果,差額分を加えて,上記の目的遂行のために,よりより消耗品,旅費使用などが可能となることが予想される。具体的には,本来の目的であるグラフェンの感染センサーへの応用について,現有の特別なインピーダンス測定装置と画像撮影装置などを使用して,これらの運営のための消耗品に当てて,最良の結果を得る方向で検討する予定でいる。
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