研究課題/領域番号 |
17K06826
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研究機関 | 鈴鹿工業高等専門学校 |
研究代表者 |
兼松 秀行 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (10185952)
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研究分担者 |
平井 信充 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (50294020)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グラフェン / バイオフィルム / 細胞外重合物質 / 有機ポリマー / センサー / EPS / 多糖 / タンパク質 |
研究実績の概要 |
細菌によって形成されるバイオフィルム中の有機ポリマー(EPS: 多糖,タンパク質,核酸,脂質)が,グラフェン上に付着しやすいことは初年度(2017年度)に明らかとなった.このときに用いたグラフェン試料はCVD法により形成された市販品であり,品質は確かなものであったが,市販品であるため,製造法に関する情報が部分的に秘匿され,また,単価が高く,本研究が目指すバイオフィルムセンサー開発という観点からは,必ずしもベストのものではなかった.そのため,2018年度は,ノーベル賞英国の二人の学者が獲得した際に用いたスコッチテープにより,グラファイトからの機械的剥離を繰り返す方法で作製したグラフェンおよび,より容易に安価で高品質で入手可能なグラフェン粉末(nano powder)を,コーティング剤としてすでに本研究者が産学連携で開発を進めてきたシラン系樹脂中に分散させ,コンポジットコーティング材とし,これを各種材料上に塗布して,バイオフィルム形成能,EPSとの結合力などを,モデル菌としての大腸菌(グラム陰性菌),表皮ブドウ球菌(グラム陽性菌)を用いて検討した. その結果,(1) 機械剥離法によるグラフェン作製は,テープ剥離繰り返し数の増加とともに,グラフェンに近づき,その結果バイオフィルム形成能がグラファイトから純粋なグラフェン膜に近づくととともに(剥離回数を増加させるとともにの意)バイオフィルム形成能が向上することが確認された.(2)純粋なグラフェン膜と比較すると,バイオフィルム形成能は弱いものの,グラフェン分散シラン系樹脂コーティング試料においても,ある程度バイオフィルム形成能およびEPS結合力が良好であることが確認できた.(3)評価法としてクリスタルバイオレットを用いた染色法を用いたが,染色の色の変化でバイオフィルム形成能を評価する指標を作ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
バイオフィルムセンサーの作製が本研究の最終的な目的である.そのために, (1)バイオフィルム形成が起こりやすいグラフェン膜,あるいはグラフェンコーティング膜(コンポジットを含む)を安定的に形成させる必要性がある.(2)センシング技術の原理的確立を達成する. という二つの目標を本研究は必然的に有している.このうち, (1)グラフェン膜作製については,容易にまた安価に作製できるグラフェン分散シラン系コンポジットコーティング膜の作製とそのセンシングへの利用の可能性を確認したこと.(2) センシングに必要なパラメーターとして,染色に伴う色の発現をあらわすL*a*b*により,グラフェン上のバイオフィルム形成進行度をセンシングすることができることを確認したこと. の二点が挙げられる. また,最終年度に向けて,(1)より機械的に強い二層グラフェンをCVDにより作製する共同研究を産業技術総合研究所(つくば)と開始し,安定的に二層グラフェン膜を入手し,バイオフィルム形成のセンシングを原理的に確認できる体制ができたこと.(2)センシングの方法として,染色-色差のみでなく,電気的な信号(抵抗値)で評価できることが予備実験で確認できたこと.(3)電気化学的な測定法のうち,ポテンシオメトリーによりバイオフィルムの形成進行度をセンシングできる技術を実験室において確立し,これをグラフェン研究に適用できる可能性ができたことがあげられる.(2)と(3)については予備実験における確認段階であり,これから本格的な研究を開始するが,センサー製作という最終段階につながる成果と計画となることが予想されるため,予想以上に進展し,最終年度の成果に期待できる状況にあると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2019年度はこれまでに得られた知見を基に,センサー製作の基礎的な確立を目指して検討を行いたいと考えている.センサリングの可能性としてあげられるのは以下の三つである. (1)染色による色差センサーの確立:クリスタルバイオレットによる染色をグラフェン膜あるいはグラフェン分散シラン系コンポジットコーティング膜に適用し,色の変化を色差として測定し,これを評価の指標とする技術の確立.これについては原理的には可能であることを2018年度に明らかにしたため,さらに踏み込んでセンサーとしての活用の可能性を模索する. (2)直流抵抗,インピーダンスセンサーの確立:グラフェン膜,あるいはグラフェン分散シラン系コンポジット皮膜によるバイオフィルム形成度の測定を行い,原理的に,バイオフィルム形成と抵抗変化との相関を明らかにし,これをセンサーとして確立する技術を検討する.グラフェン分散シラン系コンポジットコーティング膜については,予備実験の結果,簡単な装置を用いて,直流抵抗値で評価できる可能性が大きく,鋭意検討を始めている.また二層グラフェン試料についても,同様の検討を始めている.交流についてはこれからの検討事項となるが,相関がとれれば,センサーの製作に移行したいと考える. (3) 電気化学センサーの確立:現在別の系で,電気化学測定の一つの方法であるポテンシオメトリー法によって,バイオフィルム形成度の評価ができることが明らかとなっている.そこで,この手法を二層グラフェン膜試料およびグラフェン分散シラン系コンポジットコーティング膜に応用してセンサリングの確立可能性を検討する.またサイクリックボルタンメトリー,クロノアンペロメトリー法など,電流を流す形式のセンサーの検討も併せて行い最終年度の検討としたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
グラフェン膜作製に注力して研究を繰り返し行ったため,物品費の消耗の必要性が低かったことが一因としてあげられる.しかしながら,この壁を乗り切ったため,次年度以降,すでに記述したように,確立した手法に基づき最終的なセンサー作製に集中して成果を上げる予定である.
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