研究課題/領域番号 |
17K06835
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
堤 祐介 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (60447498)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 生体材料 / 表面・界面物性 / ジルコニウム / 腐食 / 防食 / 耐食性 / 表面処理 |
研究実績の概要 |
(1)表面分析による欠陥因子の把握と試料の作製 昨年度はジルコニウム表面に露出した不純物からなる介在物が、ジルコニウムでの局所的な腐食を引き起こし、耐食性を決定づける要因になっていることを明らかにした。このため、今年度はこの不純物元素を特定するため、ジルコニウムに金属元素として鉄、スズ、ハフニウム、軽元素として酸素、炭素、窒素をそれぞれ0.5%程度添加したボタンインゴットを作製し、耐食性を評価した。なお、作成したインゴットは熱処理として石英ガラス管に真空封入し、1173Kで1時間保持後、氷水中で急冷し容体化処理を施し、再度石英ガラス管に真空封入し、1073Kで1時間保持後炉冷することで焼鈍処理を施した。耐食性評価の結果、ジルコニウム中に酸素と炭素が同時に含まれている場合に限り、特異的に腐食が誘発されることが明らかとなった。
(2)ジルコニウムの耐食性を改善する電気化学的表面処理法の開発 上記の局所的な腐食を誘発する欠陥因子のみを選択的に除去することで、ジルコニウムの耐食性を大幅に改善できることが期待される。今年度は計画を前倒しして、欠陥因子除去のための表面処理法開発に取り組んだ。腐食の意図的な誘発後、ただちに腐食を停止させることを可能とするため、特定の溶液中で定電圧または定電流の条件の正負サイクルを印可し、ジルコニウムの電気化学反応を制御した。この結果、ジルコニウム表面には腐食を誘発した介在物が存在していたと思われる深さ数マイクロメートル程度の浅型の窪みが多数形成されており、この試料の耐食性は劇的に改善することが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、当初の計画に則り、試料作製、耐食性評価の2項目について重点的に取り組んだ。この結果、介在物を意図的に導入した試料を用いて実験を行うことにより、ジルコニウムの耐食性を低下させている要因の解明に成功した。 また、上記の成果を踏まえ、最終年度に実施することを計画していた、ジルコニウムの耐食性を改善するための表面処理法の開発を、前倒しで実施した。この結果、電気化学的な手法により、特定の溶液、および特定の電圧・電流の印可条件において、ジルコニウム表面の介在物が選択的に除去され、耐食性が大幅に向上することを実際に確認した。 以上から、本研究課題の進捗は、計画以上に進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、ジルコニウムの耐食性を改善するための電気化学的表面処理法について、条件を調整し、より効率的・効果的に表層の介在物を除去するとともに、周囲の母材の溶解を最小限に留めることができるよう最適化を行う。また、耐食性が特異的に低下することが明らかとなった不純物を導入したジルコニウム試料を作製し、微小領域における耐食性評価の実験を行うことで、実際にこの介在物の周囲で腐食が開始されることを確認する。 研究の進捗次第では、上記表面処理による浅型の窪みの形成がジルコニウムの機械的性質、特に、疲労特性に影響しないことを確認するための実験も実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は試料作製のための原材料や研磨、熱処理関連の消耗品、また、電気化学測定のためのガラス器具、電極など、比較的定額の消耗品を中心に経費を執行した。電気化学測定装置の老朽化に伴い新規装置の購入の必要が生じたが、別の科研費等の課題との共有により購入費用の一部のみで賄えたこと、また、今年度は耐食性改善の表面処理方開発を前倒しで実施したため、微小領域電気化学測定測定のための出張が当初の計画より少なくなったことが、次年度使用額が生じる主な要因となった。 次年度は上記出張のための費用が増加することに加え、課題の最終年度にあたることから、研究成果報告のための国内外への学会発表を予定している。また、複数の論文誌への投稿を予定しており、これらのための費用に充当する。
|