研究課題/領域番号 |
17K06839
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
光原 昌寿 九州大学, 総合理工学研究院, 准教授 (10514218)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高Crフェライト系耐熱鋼 / クリープ変形 / ラスマルテンサイト / 炭化物 / 結晶粒界 / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
昨今のエネルギー情勢から、火力発電ボイラ用蒸気配管の主要鋼材である高Crフェライト系耐熱鋼には更なる耐熱性向上のための合金設計・組織改良が求められている。本研究では、粒界上炭化物の生成・成長挙動に対する粒界性格依存性と応力応答性を多角的組織解析手法により解明し、従来の高Crフェライト系耐熱鋼に対し新たな組織設計・制御方法を提案することを目的とする。 平成29年度は、本研究の基礎課題として高温での炭化物の生成・成長に対する粒界性格依存性の起源の解明に取り組んだ。出発材として、高Crフェライト鋼の代表的実用鋼種であるASME Grade 91相当鋼の焼きならし材を作製し、その組織を詳細に観察した。TEM像から、焼きならし材にはオートテンパ効果により数十 nm程度の針状の炭化物(電子回折図形や元素分析よりセメンタイトと判明)が生成していることが確認され、これらはいずれも特定の結晶方位に配向していた。 また、結晶粒界周辺には、多数の残留オーステナイトの生成も確認された。焼きならし材を用いてTEM内その場加熱実験を行ったところ、残留オーステナイトは早期に消失する一方で、セメンタイトは徐々に成長する様子を示し、本研究で着目する炭化物への遷移が生じている可能性が示唆された。 次に、焼きならし材に600°Cで最大1500時間の静的時効を行い、炭化物の成長挙動を粒界の性格とともに解析した。その結果は、過去に報告した焼戻し処理を施した試料とは大きく異なっており、パケット境界とブロック境界上では炭化物はほとんど成長しない。旧オーステナイト粒界上の炭化物は、1500 時間で100 nm程度まで成長した。このように、焼きならし材を出発材とした単純時効では炭化物の成長速度は遅く、過去に報告されてきた同炭化物の成長挙動には「焼戻し処理」または「応力負荷」の影響が強く作用していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画において、平成29年度には、[1]粒界炭化物の生成・成長に対する粒界性格依存性の起源と[2]粒界炭化物の成長挙動に対する応力応答性の2つの課題について取り組みを開始することとした。 [1]については、研究実績の概要で述べたとおり、焼きならし材を用いた静的時効により、炭化物の成長に対する「残留オーステナイト」「前駆的炭化物(セメンタイト)」の寄与を考察した。また、炭化物成長挙動には「焼戻し処理」と「応力負荷」の効果が強く作用するとの結論を得るに至った。現在、意図的に不純物を多く含有させた試料についても調査を開始しており、研究計画は当初の予定どおりに順調に進行している。 [2]についても、現在、種々の応力下で実施するクリープ試験を100時間ないし500時間で中断させた試料を作製中であり、平成30年度の第二四半期頃にはこれらの試験が終了する予定である。得られた試料に対して平成29年度と同様の組織解析を施すことで、炭化物の成長挙動に対する応力の効果を的確に判断することが可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度の成果から、炭化物の成長挙動には「焼戻し処理」ないし「応力負荷」が重要な因子となることが示された。そこで、H30年度は特に上記研究課題[2]の粒界炭化物の成長挙動に対する応力応答性に注力する。クリープ試験を中断して得られた試料について、炭化物の成長挙動を解析し、応力の効果を各粒界の性格を考慮しながら考察する。以上の試料は焼きならし後の組織を出発材とするため、これまでに報告されたことのない実験データが得られ、また、過去に報告されている焼戻し処理後の試料を出発材とする研究例と比較することで、炭化物成長挙動への「焼戻し処理」の影響についても検討を行う。また、応力負荷(すなわちクリープ試験)ないし焼戻し処理を施した際の「炭化物/母相間整合性」の変化について、TEM観察等の詳細な検討を開始する。 一方で、静的時効中での炭化物成長に対する不純物元素の影響および結晶粒界での元素偏析の影響については、基礎的知見として本研究の考察に必要不可欠なデータであり、それらの獲得を研究課題[1]における平成30年度の推進事項とする。 以上の研究遂行内容は、本研究開始時の実施計画に沿ったものであり、本研究の進捗状況は極めて順調である。
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