研究課題/領域番号 |
17K06846
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
土屋 文 名城大学, 理工学部, 教授 (90302215)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リチウム酸化物 / リチウムイオン二次電池 / リチウムイオン移動機構 / 飛行時間型反跳粒子法 / リチウム蓄積量その場測定 |
研究実績の概要 |
本研究では、飛行時間型反跳粒子検出(ToF-ERD)法を用いて、印加電圧に対する全固体Li+イオン二次電池試料内のLi濃度分布の変化を計測するとともに、全固体Li+イオン二次電池試料内におけるLi+イオン移動機構の解明を目的とした。 室温において、真空内で作製したLi電池(Au/LiCoO2/LATP/Pt)試料に2.05 Vまでの各電圧を印加しながら、9 MeVの銅イオン(Cu10+)ビームを用いたToF-ERD法によって、正極側(Au/LiCoO2/LATP)および負極側(Pt/LATP)のそれぞれのLi濃度分布の変化をその場で測定し、充電時における正・負極/固体電解質界面近傍のLi+イオン移動機構について調べた。 Au/LiCoO2/LATP正極側のLixCoO2中のLi濃度(x = 1.00)は印加電圧の増加とともに減少するが、約1.8 V以上まで充電すると、Au側で約74 at%(x = 0.26)、LATP側で約48 at%(x = 0.52)まで減少し、濃度勾配が生じることが判明された。また、LiCoO2/LATP界面から深さ約150 ± 10 nmの領域におけるLATP(LixAl0.4Ge0.7Ti0.9P3O12)中のLi濃度(x = 1.40)も約13 at% (x = 1.21)減少した。このLi濃度欠損は、LiCoO2中の濃度勾配形成に依存すると考えられる。このとき、Pt/LATP負極側の界面から深さ約240 ± 10 nmの領域におけるLATP中のLi濃度が増加し、Pt/LATP界面近傍のLi濃度が最大約2.65倍(x = 3.71)に達することがわかった。従って、ToF-ERD法を用いることで、LiCoO2正極中のLi+イオンが電位勾配によりLATP中の負極側へ駆動されて流されることをその場で観測し、充電時におけるLi+イオン電池中のLi+イオン移動量を定量的に評価することを可能とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度から令和元年度までに作製したAu/LiCoO2/LATP/Ptの全固体リチウムイオン二次電池試料および試料ホルダー、改良した9 MeVの銅イオン(Cu10+)ビームを用いたToF-ERD用イオンビーム分析装置および既存の電気化学測定装置を用いて、室温においてAu/LiCoO2/LATP/Ptリチウム電池試料に2.05 Vまでの各印加電圧で15分間保持しながら電極に流れる電流値を正確に計測すると同時に、LiCoO2正極およびLATP固体電解質界面近傍のリチウム濃度変化をその場で測定することで、充電時におけるリチウムイオン移動量と電気特性との関連性を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに改良してきたToF-ERD装置を用いて、同じ条件で作製されたAu/LiCoO2/LATP/Ptリチウム電池試料中のLATP固体電解質内に形成されたその場LixTiy(PO4)3負極に蓄積されたリチウムイオンの電位勾配によりLiCoO2正極への駆動されて流される流量をその場で測定するとともに、電気化学測定装置を用いて計測する電流値と比較して、放電時におけるリチウムイオン移動量と電気特性との関連性を調べる。 さらに、第一原理計算により、LiCoO2正極、LATP固体電解質内のLixTiy(PO4)3負極、正・負極/固体電解質界面近傍のリチウムの蓄積占有位置およびリチウムイオンの移動軌跡を調べ、ToF-ERD法によって得られた実験データを解析してリチウムイオンの移動機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究において得られた研究成果を国内および国外の学術演会や国際会議に参加して発表する予定であったが、多くの講演会がコロナ禍により中止および延期したため、旅費および会議登録費等としての予算執行が不可能になった。 次年度では、得られた研究成果を日本金属学会、応用物理学会およびイオニクス討論会等のイオン伝導体、電池、イオンビーム分析およびイオン移動メカニズム、エネルギー・環境に関する国内および国外の学術講演会や国際会議において口頭およびポスター発表を実施するとともに、論文を作成して学術雑誌に投稿する予定である。
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