研究課題/領域番号 |
17K06848
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研究機関 | 仙台高等専門学校 |
研究代表者 |
今井 裕司 仙台高等専門学校, 総合工学科, 准教授 (40334693)
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研究分担者 |
平野 愛弓 東北大学, 材料科学高等研究所, 教授 (80339241)
但木 大介 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (30794226)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 圧力センサ / ポリフッ化ビニリデン / 包埋技術 / ウェアラブルデバイス |
研究実績の概要 |
平成29年度は,圧電素子であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルム中に,電極となる金属細線を簡便な手法で包埋する技術を確立し,そのフィルムの圧力応答特性を測定することを目的とする。まず,PVDFフィルム中にAg細線(50μm径)を均等配線するための治具の作製を行った。ステンレス台の上にPVDFフィルムの膜厚を制御するためのテフロンの型枠を設置し,その型枠に数百μm程度で等間隔にAg細線を固定するための溝を掘った。固定したAg細線に,極性溶媒にPVDF粉末を溶解させたPVDF溶液を塗布し,ある一定温度で乾燥させた後に水洗して,Ag細線を包埋したPVDFフィルムからなるセンサ試料を得ることに成功した。SEMによる断面形状観察を行ったところ,Ag細線が約100μmの一定間隔を保った状態で,PVDFフィルム中に完全に埋め込まれていることを確認した。また,XRDによる構造解析により,Ag細線が包埋されているPVDFフィルムがβ型として形成されていることが確認できた。 PVDF粉末の混合濃度,溶媒の種類・混合比,乾燥温度・速度を制御して,溶液塗布法を用いたPVDFフィルムの作製条件を検討した。ある条件で作製したPVDFフィルムにタッピング圧力を印加したときの1対のAg細線間の出力電圧変化を評価した結果,1kPa以下のタッピング圧力に対して,数百mV程度のスパイク状の出力波形を観測した。複数の細線間で同様の応答特性が再現性良く観測でき,本センサは脈拍計測などへの応用を考える上でも非常に有用であることが確かめられた。本年度の結果から,圧力印加によってPVDFフィルムが一時的に微小変形することにより,Ag細線間の容量変化に起因する変位電流が生じていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,β型のポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルム中に,電極となる金属細線を簡便な手法で包埋する技術を確立することを目的としている。数百μm程度で等間隔にAg細線を固定するための治具を作製し,Ag細線を包埋したPVDFフィルムを形成することに成功した。SEMによる断面形状観察を行ったところ,Ag細線が一定間隔を保った状態で,PVDFフィルム中に完全に埋め込まれていることを確認できたため,その目的を達成している。また,1kPa以下のタッピング圧力に対して,数百mV程度のスパイク状の出力波形を観測しており,複数の細線間で同様の応答特性が再現性良く観測できたことから,圧力センサとして応用可能であることが確認できている。 また,PVDFフィルムの分極を金属細線間で均一方向に整える方法について検討を行った。PVDF溶液乾燥中にポーリング処理を施すことを試みたが,分極を揃えるまで至っていない。これについては,PVDFフィルムの作製条件を含めて,ラビング法や修飾処理により引き続き検討を行っていく。今後,平成30年度の研究実施計画として予定していた通り,ウェアラブルセンサとして活用するために,金属細線を包埋したPVDFフィルムの圧力センサとしての性能評価を行っていく。 以上,当初の研究実施計画の達成度として,おおむね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,金属細線を包埋したβ型PVDFフィルムの圧力センサとしての性能評価を詳細に行っていく。作製したPVDFフィルムにタッピングなどの圧力刺激を印加することにより,PVDFフィルムが歪みその分極状態が変化する。この分極の変化を1対(または多対)の金属細線から電圧信号として出力することにより圧力を検知することができる。本年度の成果として,タッピング圧力に対する出力電圧変化が確認されているため,今後,圧力印加時のセンサ形状変化や,センサの構造と応答波形のシミュレーション結果との比較なども併せて評価していく。 また,金属細線間隔,金属細線の径の大きさと長さ,PVDFフィルムの結晶性,センサ感度,応答速度との関連性を総合的に評価し,圧力センサとしての応答特性を評価する。ウェアラブルデバイスとしての使用環境下(温度・湿度の影響,耐久性)での検討も行う。また, PVDFフィルムからの二次元配列信号データの処理についても検討を行う。 さらに高感度の圧力センサを得るために,PVDFフィルムの分極を金属細線間で均一方向に整える方法の検討を行う必要がある。今後,ラビング法や修飾処理により,β型PVDFフィルムの分極を制御し,さらに高感度で再現性の高いセンサを作製して,実用化へのアプローチを行っていく。
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