生体組織深部における分子イメージングを可能にするため、深赤~近赤外域(650-900 nm)に高い輝度(モル吸光係数と蛍光収率の積)の蛍光を発する水溶性化学プローブを開発することを本研究の目的とする。この波長領域に強い光吸収と蛍光を示す有機色素フタロシアニン(以下Pcと略する)を水溶化することで、緑色光を用いるが故に小動物や表層組織に限られた従来のイメージングを大型動物や組織深部への発展を可能とし、アルツハイマー病等神経疾患の予防・治療や癌の蛍光診断の実現と普及に貢献すると期待される。 最終年度は、前年度に得られた結果に基づき、アニオン型リンーフタロシアニン錯体の水溶液中における分光特性(磁気円偏光二色性)のpH依存性を調べた。その結果、pHの変化に伴い完全可逆に分光特性も変化するが、錯体分子の対称性には変化が無い事を明らかにし、pHに感応する部位を特定した。 2019年度に合成したピリジン置換Pcと銀イオンとの反応により、高原子価銀(一般に銀の酸化数は+1が最も安定と考えられているが、ここでは+2の銀)の錯体を得た。二価の銀は、その潜在的な酸化力と硫黄との高い親和性故に、バイオチオール(システインやグルタチオン等)を酸化する能力があると期待される。ピリジン置換Pcの銀錯体は有機溶媒中ではチオールを酸化する能力を示さなかったが、ピリジン末端を四級化することによりカチオン型Pc錯体として水溶化したものは、細胞内におけるチオール濃度よりも低濃度でも迅速にかつ定量的に反応し、赤い蛍光を発することを見出した。 以上、当該研究課題によって開発された水溶性Pc色素は、外部環境変化に応じて迅速に作用する化学(蛍光)プローブとして有望であることが明らかになった。
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