研究課題
本研究で主として取り扱う水素化物は、Mg2FexSi1-xで表される非平衡合金を水素ガス中で特定の熱処理を施すことで得られる。注目すべきは両者は同じ面心立方(FCC)系構造をもちコヒーレントに繋がりうる点である。Fe組成xが高いと(x>0.5)、Mg2FeH6およびMg2Si相への分相が観察されたが、Si組成が高いと(x<0.5)、Mg2Si基質組織中にナノメートルサイズのMg2FeH6が生成することが予備的な透過型電子顕微鏡(TEM)観察および放射光X線全散乱実験による二体分布関数(PDF)解析により示唆されていた。平成29年度はMg2FeH6生成の明確な証拠を得るために、Mg2Fe0.25Si0.75-Hの組成に集中して水素化物作製および構造解析等を実施した。Mg2FeH6はMg2+および(FeH6)4-からなるイオン性の化合物であり、Fe原子の周りに6つのHが配置する構造をもつ。固体NMR実験によりH周りの状態を明らかにすることを目指したが、Feのもつ磁性によりNMRシグナルがブロードになり、構造の詳細に関する情報を引き出すことは困難であった。そこで原料金属の残存が少ない高品質な試料作製を行い、平成30年度はそれを用いたX線回折および放射光X線全散乱実験に注力した。その結果、Mg2Fe0.25Si0.75-Hは当初の推察の通りMg2Si中にMg2FeH6が生成していることが示され、そのサイズは1 nm程度と推定された。また、本研究で目指している水素化物の不安定化にも成功し、ナノメートルサイズのMg2FeH6は通常のバルク体に比べて高い圧力で水素を放出した。平成31年度は研究計画の通り、これまでに得られた水素化物の構造解析結果を基に、水素化物の安定性制御の方策を検討し、他の金属元素の添加なども実施して低コストの水素貯蔵材料開発を継続する。
2: おおむね順調に進展している
研究実施計画における平成30年度の計画に沿って、Mg2Fe0.25Si0.75-Hの組成に絞り水素化物の合成と構造解析等を進めることができた。放射光X線全散乱実験により得られた二体分布関数(PDF)解析を行うと共に、目的とした水素化物の不安定化が認められた。引き続き構造情報を基としてさらなる水素化物の安定性制御を目指した元素添加・置換等を試みていく。
ナノメートルサイズのMg2FeH6をMg2Si中に生成させることに成功し、Mg2FeH6の熱力学的安定性を低下させることができたが、さらなる水素化物の安定性制御を目指してFe以外の遷移金属元素を添加あるいは置換することも試みる。
実績報告の通り研究は概ね順調であり、平成30年度は水素化物の熱力学的安定性制御についてデルフト工科大学に赴き議論を行うと共に、現段階までの成果を国際会議等で発表した。平成30年度までの予算残額は、平成31年度前半に計画している固体NMR装置への冷媒充填などに充てられる計画であり、当初研究計画からの目立った逸脱は無い。
すべて 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)