研究課題
本研究で主として取り扱う水素化物材料は、Mg2FexSi1-xで表される非平衡合金を水素ガス中で特定の熱処理を施すことで得られる。注目すべきは両者は同じ立方晶系構造をもちコヒーレントに繋がりうる点である。各原料金属をボールミリング後に水素中熱処理を行って作製した水素化物は、Fe組成xが高いと(x>0.5)、Mg2FeH6およびMg2Si相への分相が観察されたが、Si組成が高いと(x<0.5)、Mg2Si基質組織中にナノメートルサイズのMg2FeH6が生成することがX線回折実験および水素吸蔵放出性評価から示唆されたが実験的確証には至らなかった。透過型電子顕微鏡(TEM)観察でもナノメートルサイズのFeリッチな領域がMg2Si中に分散していることは分かったが、Mg2FeH6相の生成が確認されたことにはならない。Mg2FeH6はMg2+および(FeH6)4-からなるイオン性の化合物であり、Fe原子の周りに6つのHが配置する構造をもつ。固体NMR実験によりH周りの状態を明らかにすることを目指したが、Feのもつ磁性によりNMRシグナルがブロードになり、構造の詳細に関する情報を引き出すことは困難であった。そこでさらにメスバウアー分光実験および放射光X線全散乱実験による二体分布関数(PDF)解析を組み合わせた結果、Mg2Fe0.25Si0.75-Hは当初の推察の通りMg2Si中に微小なMg2FeH6の生成が示された。Si組成が高いMg2Fe0.25Si0.75-Hについては、本研究で目指した水素化物の不安定化に成功し、ナノメートルサイズのMg2FeH6が通常のバルク体に比べて高い圧力で水素を放出した。引き続きこれまでに得られた知見を基に、さらなる水素化物の安定性制御の方策を検討すべく、Feの代わりに他の金属元素の添加なども実施して低コストの水素貯蔵材料開発を継続していく。
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Inorganic Chemistry
巻: 59 ページ: 2758~2764
10.1021/acs.inorgchem.9b03117