研究課題/領域番号 |
17K06856
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
早川 邦夫 静岡大学, 工学部, 教授 (80283399)
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研究分担者 |
上森 武 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (70335701)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 弾塑性構成式 / バウシンガー効果 / 移動硬化則 / 複合硬化則 |
研究実績の概要 |
鍛造行程として,熱処理の行われないステンレス鋼製ボルトの冷間鍛造工程に着目し,製造されたボルトの寸法精度および供用時強度の高精度な予測を目指した. ステンレス材料のバウシンガー効果を明らかにするため,材料試験を実施した.圧縮時の座屈挙動を緩和する為に工夫されたジグを考案し実験を行い,単軸引張り,単軸圧縮ならびに繰返し引張―圧縮挙動を取得した.それらのデータを元に,複合硬化モデルであるChabocheモデルおよび移動硬化モデルであるYoshida-Uemoriモデルの材料パラメーターを取得した.それぞれのモデルは,実験結果を良好に予測できることがわかった. つづいて,ステンレス鋼製ボルトの多段階冷間鍛造加工に対するシミュレーションを実施した.鍛造された形状については,実験と解析で良い一致が見られた. 鍛造シミュレーションの後のボルトの強度評価を,鍛造解析ののちに引き続いて引っ張り解析を行うことで評価した.比較として,一般的な鍛造シミュレーションに用いられる単純な等方硬化モデルで鍛造工程解析を行ったものと比較した.その結果,バウシンガー効果を考慮したモデルによる解析では,実際のボルトの強度に近い値を得ることができた.一方,等方硬化モデルによる強度予測では,実際の強度より高い強度が予測され,危険側予測となった.その原因について,等方硬化モデルは,応力作用方向に拘わらず降伏面は拡大し続けるため,加工後の強度が大きめの予測となることがわかった. また,移動硬化モデルによる寸法予測精度を調査するため,ボルトとおなじステンレス鋼を用いて,冷間前方押出し加工における直径変化の実験および解析を行った.通常冷間押出しでは,押し出されたのち金型から抜き出す工程があり,ジグを工夫して押出しのみの直径を調べた.その結果,移動硬化モデルの方が,等方硬化モデルよりも高精度に予測できることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ボルトの冷間鍛造工程のシミュレーションにおいて,移動硬化あるいは複合硬化モデルによる,鍛造部品の供用時強度の予測精度は十分にたかいことが示された.鍛造において,本研究のようにバウシンガー効果を考慮して材料強度予測を行った例は,調査の限りなかったため,国際的に貴重な結果といえる. また,移動硬化モデルの利用が,寸法精度にも大きな影響を与えることも明らかにできた.板成形では,スプリングバック解析において移動硬化モデルの利用の有効性は明らかにされているが,鍛造部品においても,100分の1ミリメーターのオーダーの寸法精度予測が要求される場合に,本研究は有効である. 一方,材料モデルのパラメーターについて,鍛造工程で与えられるようなひずみ域での材料試験が困難であったため,大ひずみ域での繰返し変形挙動の取得が必要であるが,本年度では,満足な成果が得られずに終わった.来年度以降の課題である.
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今後の研究の推進方策 |
材料モデルのパラメーターについて,鍛造工程で与えられるような大きなひずみ域での材料試験を考案・実施する.候補として,座屈の生じない面内の繰返し負荷試験の一つである繰返しせん断変形を与える方法を考えている.この手法は,これまでにプレス成形用板材については,多くの先行研究と報告がなされているが,鍛造材料については国内外での報告事例はこれまでのところない.具体的には,鍛造用線材から板材を切り出し,当研究室所有の油圧・電気サーボ式疲労試験機で繰り返し負荷試験を行う.そのためのジグを本研究にて考案・製造する.得られた実験結果を,有限要素法で再現し,材料モデルのパラメーターを同定する.その材料モデルを用いて,前年度のボルトの冷間鍛造工程シミュレーションを再度実施し,その妥当性を検証する. また,バウシンガー効果を考慮すべき鍛造部品について,現在注目されている厚板を用いた鍛造部品に対する寸法精度および供用時強度予測を実施予定である.
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