研究課題/領域番号 |
17K06860
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 誠 大阪大学, 接合科学研究所, 講師 (10294133)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 陽極接合 / 陽極酸化 / 接合界面の機能化 / 界面微細組織 / 微小力学試験 |
研究実績の概要 |
・non-blocking anode元素を用いた陽極接合中の導体材料の酸化の部分的制御 29年度以前の研究では、ガラス同士の陽極接合を仲立ちする導体層の接合後の残存量を接合界面上の場所によって変えるために接合面に施す導体層の厚みを部分的に変化させていた。この方法で界面上の導体層が全て酸化された部分と一部が未酸化で残存した部分が共存する継手を作成できたが、導体層の厚さが替わる位置に生じる接合面の段差がその周囲の健全な接合を妨げる可能性があった。そこで、アルミニウム層を仲立ちとするガラス同士の陽極接合において、ガラスと接触させ陽極としてガラスとの間に電圧を加えると陰極側に移動するガラス中の陽イオン元素を置換しながらガラスに侵入する性質をもつ銀の層をアルミニウム/ガラス接合面の一部にはさむことによって接合電圧印加開始後のアルミニウム層とガラスの接合の開始を遅らせ、接合後にその部分に未酸化のアルミニウム層を残存させることを試み、仲立ちのアルミニウム層が銀層を施した部分に残存し、それ以外の部分ではすべて酸化された継手を得た。 ・高導通性の部分と絶縁性の部分が共存するガラス同士の陽極接合界面の作製 29年度の研究で開発した、接合する両方のガラスの接合面に仲立ちの導体層を施して陽極接合を行う手法を応用して、未酸化の導体層が残存し高い導通性を持つ部分と全ての導体層が酸化され絶縁性となった部分が共存するガラス同士の陽極接合界面を作製した。1枚のガラスの接合面に蒸着層のない狭い帯状の部分で区切られた厚いアルミニウム層を施し、もう1枚のガラスの接合面に薄いアルミニウム層を施して、両者を重ね合わせて接合を行った。適切な接合条件下で、2つのアルミニウム層が重なった部分は高い導通性を示し、薄いアルミニウム層のみの部分で仲立ちされた部分は全てのアルミニウム層が酸化されて絶縁性となった接合界面が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度に開発した接合する両方のガラスの接合面に仲立ちの導体層を施して陽極接合を行う方法を用いて、研究課題の主要な目的である導通部と絶縁部が共存する接合界面を持つガラス同士の陽極接合継手を実際に作製することができた。また、接合界面に未酸化で残存する導体層の量を制御する新たな方法として、電圧印加によってガラス中の陽イオン元素を置換しながらガラスに侵入する性質(non-blocking anode)を持つ銀をガラスと導体層の接合面の一部に挿入して、その部分でのみ接合中の導体層の酸化を遅らせる方法の可能性を示すことができた。この方法では接合を仲立ちする導体層の厚さは接合面全体で一定であり、また一部に施した銀層は電圧印加中にガラスに吸収されるため接合面に導体層の厚さの違いに起因する段差が生じることがないので、接合面全体をより均一に接合できると考えられる。 また、接合界面に適切な量の導体を残存させるためには接合条件、特に接合電圧の印加時間を精密に制御する必要があるが、そのためには特に、導体層とガラスを健全に接合するために必要な最低限の電圧印加時間を知る必要がある。陽極接合では接合の対象であるガラスが脆性的であり、また薄板同士の重ね接合であることから得られた接合界面の強さの評価が難しかった。そこで集束イオンビーム(FIB)加工装置を用いて接合界面を横切る微小試験片を作製し、その曲げ試験も同じ装置中で行う手法を考案し、それを用いることでガラス同士の陽極接合界面の強さの評価を行い、アルミニウム層を仲立ちとしたソーダライムガラス同士の陽極接合では接合電圧の印加開始後に接合界面の密着が生じてから短時間のうちに界面の強さが高い値に達しその後大きく変化しないこと、また界面の強さが十分な値に至るまでに必要なガラス中のイオンの移動量の目安を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ガラス同士の陽極接合を、仲立ちする導体層を接合する両方のガラスの接合面に施して行う方法を応用して、導通性のある部分と絶縁性の部分が共存するガラス同士の陽極接合界面を作製できることが実証できたので、今後はこの方法で接合界面上に形成しうる導通部/絶縁部のパターンをどの程度細密化・複雑化しうるかの検証を行う。 また、30年度に新たに考案した、電圧印加によってガラスに侵入する材料を接合の仲立ちとする導体とガラスの間にはさんで導体の酸化を部分的に遅らせる方法や、ガラス同士の陽極接合界面に部分的な導通部を作成するための別の方法として当初から提案していた導体層の一部を難酸化性の金属と置き換えてその金属の層を接合界面に残存させる方法についても実験を進める。 これらの手法で得られた陽極接合界面の力学的・電気的・光学的性質を、FIB装置中での微小力学試験などの手法を用いて測定し、それぞれの作製手法によって得た接合界面の性質の違いを明らかにする。また、それらの性質を材料学的に説明するため、界面の微細組織を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察する。 フォトリソグラフィー等の技術を用いて、継手の健全性を保ちつつ、ガラス同士の陽極接合界面上に接合を仲立ちする導体が残った導通部と完全に酸化された絶縁部の微細化なパターンを作製する。そのようなパターンを形成できたら、導通部と絶縁部の光透過性の違いを利用して、本課題のもう一つの目的である回折格子などの光学素子のガラス同士の陽極接合界面上への作製を試みる。 ガラス同士の陽極接合界面の光学的性質を制御する手段として提案している、仲立ちの導体層に難酸化性の金属を合金化して接合界面に微細な金属粒子を分散させる手法も、陽極接合継手への逆電圧印加についての過去の知見も活かして検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額分は、ガラスの接合面上に仲立ちとなる導体層のパターンをエッチング等の手法で作製するのに必要な試薬や消耗品の購入に充てる予定であったが、30年度に行った研究ではパターンの作製をより単純な段階にとどめ、手作業でこれを行ったためそれらを入手する必要がなかった。 次年度は作製する導体層のパターンをより繊細化・複雑化するため、次年度使用額はそれに必要な消耗品等の購入に充てる計画である。
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