研究課題/領域番号 |
17K06862
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
田中 秀和 島根大学, 総合理工学研究科, 教授 (70325041)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 人工鉄さび / 塩害環境 / 大気腐食 / 耐候性鋼 / 合金金属 / 形態制御 / 保護性さび粒子層 / 分子吸着 |
研究実績の概要 |
本課題では,沿岸部のような過酷な飛来塩分環境下での鋼材の腐食生成物である鉄さび粒子の生成機構を解明するとともに,形成する鉄さび粒子について「さびでさびを防ぐ」機能を付与した新たな高耐食性鋼材の開発を目的に,以下の研究を行っている。 ① 人工鉄さび粒子の生成過程,構造,形態に及ぼす塩化物イオンおよびNi系高耐候性鋼の合金金属イオン(Ni(II),Ti(IV),Cu(II)など)の影響をナノ-ミクロレベルで解明する。 ② 調製した人工鉄さび粒子について,マクロ物性評価(分子吸着,表面電位,気体透過性など)を行い,ナノ-ミクロ構造との相関および合金金属イオンの働きを解明する。 ③ 飛来塩分環境下で生成した実さび粒子と人工鉄さび粒子の相関を解明する。 ④ Ni系高耐候性鋼の合金金属の働きについての知見を基に,塩化物イオン存在下,様々な金属や元素を添加した鉄さび粒子を調製し,高耐食性発現に有効なレアメタル代替元素を探求する。 平成29年度は,上記①,②を中心に沿岸部のような過酷な飛来塩分環境下で耐食性向上に有効とされている鋼材の合金金属Tiについて,その働きを調べるため,Ti(IV)を添加したFeCl2-FeSO4混合水溶液から合成した鉄さび粒子の構造,形態を調査し,構造解析および物性評価を行った。その結果,Ti(IV)は塩化物イオン濃度の上昇とともに生成する鉄さびの結晶化を抑制し,粒子を微細化し,その効果は酸性条件下,すなわち腐食におけるアノード先端で顕著であることがわかった。また,鋼材の脱酸剤として添加されているミッシュメタル(La-Ce-Nd)中のLaが鉄さび粒子の生成に及ぼす影響を検討するため,FeCl2水溶液にLaCl3を添加し,鉄さび粒子を合成したところ,La(III)添加量の増加により生成する鉄さび粒子がFe3O4からγ-FeOOHに変化することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工鉄さび実験により,高塩化物イオン濃度下では酸性溶液でTi(IV)が鉄さび粒子の生成,結晶化,粒子成長を強く抑制し,耐食性を有する保護性さび粒子層の形成を示唆する結果が得られた。このように,過酷な塩害環境で生成する鉄さび粒子の微細化に有効なNi系高耐候性鋼の合金金属の役割,働き,動きがナノ-ミクロレベルで明らかになりつつあることから,研究目的の達成度を「おおむね順調に進展している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進計画では,平成29年度の研究を継続するとともに,下記の課題について検討する。 (1)飛来塩分環境でのNi系高耐候性鋼の腐食による鉄さび粒子の微細化に有効なNi(II),Cu(II)などの詳細な働きを人工鉄さび実験によりナノ-ミクロレベルでさらに調査し,鉄さび粒子の生成,形態,組成,物性に及ぼす個々の合金元素の役割を解明する。 (2)塩害環境で生成するさび粒子の構造,組成,形態を詳細に調査し,鋼材の暴露環境の大気組成に対する構造や形態の違いの要因をナノ-ミクロレベルで解明する。さらに研究協力者が有している実さびの経年変化についての知見を基に,塩害環境での鉄さび粒子の生成およびNi系高耐候性鋼に合金化されているNiやCuなどの役割を調査,解明する。 (3)上記(1),(2)の知見を基に,レアメタルの使用量削減を目標にNi系高耐候性鋼に合金化されているNiやCuなどと同等の働きを有する合金金属や元素を探求する。
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備考 |
2017年8月29日 第29回粉体工学情報センター学術奨励賞 受賞
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