本課題では,沿岸部のような過酷な飛来塩分環境下での鋼材の腐食生成物である鉄さび粒子の生成機構を解明するとともに,形成する鉄さび粒子について「さびでさびを防ぐ」機能を付与した新たな高耐食性鋼材の開発を目的に,以下の研究を行っている。 ① 人工鉄さび粒子の生成過程,構造,形態に及ぼす塩化物イオンおよびNi系高耐候性鋼の合金金属イオンの影響をナノ-ミクロレベルで解明する。 ② 調製した人工鉄さび粒子について,マクロ物性評価を行い,ナノ-ミクロ構造との相関および合金金属イオンの働きを解明する。 ③ 飛来塩分環境下で生成した実さび粒子と人工鉄さび粒子の相関を解明する。 ④ Ni系高耐候性鋼の合金金属の働きについての知見を基に,塩化物イオン存在下,様々な金属や元素を添加した鉄さび粒子を調製し,高耐食性発現に有効なレアメタル代替元素を探求する。 令和元年度は,沿岸部のような過酷な飛来塩分環境下で耐食性向上に有効とされている鋼材の合金金属Mo,Tiについて,その働きを検討した。Mo(V)存在下,β-FeOOHさび粒子を合成したところ,Mo(V)添加量の増加によりβ-FeOOHの結晶化は強く抑制され,1 mol%添加すると非晶質になった。さらに,Mo(V)添加はβ-FeOOH粒子を微細化し,同時に粒子の凝集性を高めることがわかった。Ti(IV)存在下,FeCl2 水溶液中の乾湿繰り返しにより鉄さび粒子を合成したところ,Ti(IV)未添加では乾湿繰り返し回数とともにβ-FeOOHの結晶性は向上したが,Ti(IV)添加では非晶質になった。また,Ti(IV)添加により粒子は微細化し,その効果は乾湿繰り返し回数の増加により向上した。したがって,鋼材へのMoおよびTiの合金化は飛来塩分環境下での大気腐食において,緻密で安定な保護性さび粒子層の形成を促進し,鋼材の高耐食性の付与,長寿命化に有効であると予想できる。
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