本研究では,凝固組織シミュレーションで用いる試行錯誤的操作により評価するパラメータ(熱伝達係数,核生成確率変数)をデータサイエンスの一手法であるデータ同化を用いて自動推定できる凝固組織形成シミュレーションモデルの構築を行う。加えて,機械学習・深層学習による凝固組織推定技術を利用した凝固組織マップ(凝固条件と凝固組織の関係図)作成法の可能性を検討する。まず,底部水冷型一方向凝固における1次元凝固伝熱解析での熱伝達係数をデータ同化(粒子フィルタ)により推定する基本ソースコード(マクロスケール計算コード)の開発を行い,Al-Si合金の実測冷却曲線を精度良く再現する熱伝達係数の推定が可能であることを確認した.この結果を踏まえ,砂型鋳造のような複数方向に抜熱する場合(3次元凝固伝熱)の熱伝達係数推定に着手した.3次元での熱伝達係数の同時推定は計算コストが膨大になるため,鋳型近傍の実測冷却曲線のみを用いる1次元モデルを複数の鋳型表面に対応させて3次元に適応したところ,鋳物内の3次元熱伝導の効果が大きく1次元モデルでは3次元での高精度推定が難しいことがわかった。そのため,直接3次元凝固伝熱解析で熱伝達係数の同時推定を行う必要があり,計算コストの面からアジョイント法のような別のデータ同化手法の必要性が明確になった。さらに,セルオートマトン法による凝固組織形成シミュレーションに必須の核生成パラメータのデータ同化による自動推定モデルを開発し,微細等軸晶組織の核生成パラメータを適切に推定できることを確認した.これは,核生成パラメータ評価の膨大な試行錯誤時間を大幅に短縮できることを支持する結果である。また,機械学習を凝固組織形成シミュレーションに適用する試みの行い,凝固組織計算の超高速化できることを確認し,学習データの蓄積により凝固組織マップの手軽な作成にも寄与できる可能性を見いだした。
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