研究課題/領域番号 |
17K06881
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
伊藤 公久 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10159866)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 粒子法 / シミュレータ / 熱流体 / 溶融金属 / 化学反応 / 非ニュートン流体 |
研究実績の概要 |
数値流体力学の代表的なLagrange手法の一つであるSPH法を用いて、熱流体解析シミュレータのさらなる開発を行った。本年度は、非ニュートン流体の計算とシミュレータにおける伝熱方程式の連成と界面熱抵抗を考慮したプログラムの開発を行った。研究計画を一部変更し、炭酸カルシウムの熱分解モデルの実験的検証を中止し、その代わりに回転剛体の打ち込みシミュレーションプログラムの開発を行った。 1) 水中を上昇する気泡形状の計算プログラムに熱伝導方程式を連成させ、伝熱の効果を計算した。また、円柱形水浴の中央に高速ガスジェットを吹付け、ジェットによるキャビティーの生成や液面変動を計算し、実際に実験を行って結果を比較した。 2) 擬塑性流体のシミュレータを開発し、グリースを用いたスクイズ流れの実験を実施して、プログラムの検証を行った。また泡立ちスラグへの適用を検討した。 3) 溶融鉄浴中に打ち込まれた炭酸塩の熱分解シミュレーションにおいては、分解の進行に伴うガス発生による界面熱抵抗の増加が予想されるため、界面熱抵抗を考慮したプログラム開発を行った。実験による検証は、実験中の試料破壊を避ける方策が講じられないため中止とした。溶融鉄中に打ち込まれた固体粒子の挙動をさらに正確に予想するために、高温液体と粒子の相互作用の新たな研究課題として、液体金属中への回転剛体の侵入を予測するシミュレーションプログラムの開発を行った。 4) 溶融スラグの顕熱回収プロセスのシミュレーションにおいて、ロールスラグ間の界面熱抵抗を考慮したプログラムを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 非ニュートン流体とニュートン流体との相互作用についての研究:擬塑性流体の流動シミュレータを開発し、グリースを用いたスクイズ流れの実験を実施して、プログラムの検証を行い、その正当性を確認した。また本プログラムの泡立ちスラグへの適用を考え、泡立ちスラグがビンガム流体と擬塑性流体のそれぞれの場合について、スラグ中の溶融鉄液滴の沈降挙動を計算した。 2) 高速気体と液体との相互作用: 水中を上昇する気泡形状の計算プログラムに熱伝導方程式を連成させ、伝熱の効果を計算した。また、円柱形水浴の中央に高速ガスジェットを吹付け、ジェットによるキャビティーの生成や液面変動を計算し、実際に実験を行って結果を比較した。その結果、液表面でのキャビティーの形成や、高速領域での液面の大変形を精度良く予測することが出来た。しかし20m/s以上の速度では、侵入したプルームが液中に留まり、計算精度を悪化させることが確認され、さらなる粒子数の増加が必要であることが結論された。 3) 高温液体と粒子の相互作用: 溶融鉄浴中に打ち込まれた炭酸塩の熱分解シミュレーションにおいては、分解の進行に伴うガス発生による界面熱抵抗の増加が予想されるため、界面熱抵抗を考慮したプログラム開発を行った。開発したプログラムの実験による検証を実施したが、試料石灰石の加熱によるクラック発生が不可避であったため、実験の継続を断念した。その代わりに、溶融鉄中に打ち込まれた固体粒子の挙動をさらに正確に予想するために、高温液体と粒子の相互作用の新たな研究課題として、液体金属中への回転剛体の侵入を予測するシミュレーションプログラムの開発を行った。また、溶融スラグの顕熱回収プロセスのシミュレーションにおいても、ロールスラグ間の界面熱抵抗を考慮したプログラムをあらたに開発した。
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今後の研究の推進方策 |
1) 非ニュートン流体とニュートン流体との相互作用についての研究:非ニュートン流体とニュートン流体からなる2相流について、ニュートン流体として溶融鉄を、非ニュートン流体として、ビンガム流体および擬塑性流体で近似したスラグを用いた計算を行い、実際の鉄鋼プロセスとの比較を行う。 2) 高速気体と液体との相互作用:現在用いている粒子数をこれ以上増加させることは、現有の計算能力から考えると困難が大きいので、高速気体の速度は20m/sを上限とし、既存のシミュレータに伝熱の効果を連成したプログラムの開発を行う。また、実際に溶鉄中に吹き込まれた気泡についても伝熱による効果を推定するためのプログラムを開発する。 3) 高温液体と粒子の相互作用: 液体金属中への回転剛体の侵入を予測するシミュレーションプログラムをさらに改良し、実際の装入物のような複雑な形状の固体が侵入する場合についても解析を行うとともに実際にモデル実験を行ってシミュレータの精度を向上させる。さらに、新しい課題として、高温液体中への固体粒子の溶解挙動を予測するシミュレータの開発に着手するとともに、検証用のモデル実験を行ってデータを蓄積する。 4) 速度論シミュレータの改良:開発した各種の粒子法シミュレータと現有の速度論シミュレータとの連結を試みる。速度論シミュレータは脱リンに特化しているので、一般性を持たせるため、シミュレータ内の計算熱力学データを充実させる必要がある。具体的には、様々な精錬反応(脱硫、脱炭、脱窒、脱酸)に対応した熱力学情報を既存のデータべースから抽出し、高次の競合反応を解析するためのプログラム開発を行う。さらに、新たに開発する固体の溶解シミュレータを結合して、実プロセスの解析に資するシミュレータを構築する。
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