令和3年度までに粘弾性を示す高分子を添加した流体が同心二重円筒間のテイラークウェット流れにおいてニュートン流体と比較して広いレイノルズ数範囲で安定したテイラー渦群を形跡することが確認された.また,テイラー渦が生じている場に軸流を生じさせる場合,軸方向流量と内円筒回転数の組み合わせによっては渦を乱し,安定性を失わせてしまう場合がある.また,可視化により見かけ上安定した渦を維持しながら軸流を生じさせているような場合でも渦間の混合に伴うバイパス流が生じ,理想的な滞留時間分布とならない場合があることが確認されている. 最終年度である令和4年度においては反応器としてのテイラークウェット流れの性質を定量的に評価するために塩化カリウム水溶液をトレーサとしてステップ応答実験を実施し,異なる流体,操作条件における滞留時間分布を求め,装置内を完全混合流れ,バイパス流れ,停滞部からなるものとする組み合わせモデルによる評価を試みた.また,一次反応を仮定した場合の反応率による評価も併せて行った.その結果回転レイノルズ数が大きい条件では高分子添加によって反応率が高くなり,粘弾性が反応器の性能向上に効果を有することが確認された.一方回転レイノルズ数は低い条件では逆に高分子添加流体の場合の反応率が低くなった.これは組み合わせモデルによる評価により相対的に停滞部の体積が大きくなり,見かけ上の反応器としての体積が小さくなることによるものと確認された. 以上より実プラントでの操作条件として有効な比較的回転レイノルズ数の大きい操作条件において反応原料を含む流体に微量の高分子を添加して粘弾性流体とすることが同心二重円筒型反応装置の性能向上に寄与することが確認された.
|