研究課題/領域番号 |
17K06888
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高橋 伸英 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (40377651)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | CO2化学吸収 / CO2放散促進 / 酸触媒 / 酸性官能基修飾 / アルミナ粒子 / 固定床放散装置 / 劣化挙動 |
研究実績の概要 |
火力発電所などの排ガスからアミン系吸収液との化学反応を利用しCO2を分離する化学吸収法において、CO2を吸収した吸収液からCO2を放散し吸収液を再生する際に要する熱エネルギーの削減を目指し、酸性官能基で表面修飾したアルミナ粒子と吸収液との接触による放散促進効果について研究を行っている。 スルホン基を修飾した無孔性のアルミナ粒子では未修飾粒子に比べてpH、等電点が低下し、Boehm滴定による酸性官能基量、アンモニアTPDによる酸量は増加し、スルホン基修飾によりプロトン供与能が著しく増大したことが分かった。この粒子をCO2を予め吸収させたアミン吸収液に添加しバッチ式反応装置を用いて放散実験を行ったところ、粒子添加なし、および、未修飾粒子を添加した場合に比べてCO2ローディングが大きく低下し、著しく放散が促進された。この結果より、スルホン基修飾粒子の添加がCO2放散の促進に効果的であることが示された。 また、粒子を充填した連続式固定床型反応装置を用いて放散促進効果の持続性についても調査した。ガラスビーズと未修飾アルミナ粒子を充填した場合では、後者の方が放散速度が高く、両者とも放散速度が時間によって変化せずほぼ一定となった。一方、リン酸基修飾アルミナ粒子を充填した場合は、未修飾粒子に比べて放散速度が著しく高くなった。これより、吸収液が流通する連続式でも酸性官能基修飾粒子による放散促進効果が認められた。しかし、放散速度は時間とともに徐々に低下し、最終的には未修飾粒子の場合と同等になった。各粒子の酸特性をアンモニアTPDにより調査した結果、使用前のリン酸基修飾粒子は未修飾粒子に比べて酸量が増加したが、使用後のリン酸基修飾粒子は未修飾粒子と類似の酸特性を示した。このことより、放散速度が時間とともに低下したのは、修飾したリン酸基が徐々に脱離したためであることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CO2-アミン吸収液の平衡関係への影響調査では、粒子無添加の場合、未修飾アルミナ粒子、リン酸基またはスルホン基で修飾した粒子、および、既に放散促進効果が報告されているゼオライトHZSM-5粒子を添加した場合のいずれについても、気相CO2と液相CO2ローディングの平衡関係はほとんど同一であった。一方、バッチ式の反応装置を用いた放散実験では、スルホン基修飾粒子を添加した場合、粒子無添加および未修飾粒子添加の場合に比べて放散が促進され、最終CO2ローディングも著しく低下した。この平衡測定との結果の矛盾については今のところ原因が明確になっていない。平衡実験およびバッチ式放散実験の両方について、実験方法の見直し、検証が必要である。 一方、固定床型反応装置を用いた連続放散実験では、文献の試験装置を参考にしつつ、実験室規模で行えるように縮小して装置を作成した。しかし、入口から出口に掛けてのローディング変化が小さく、粒子間の放散効果の差を検討するには不十分であった。これを改善するために、反応管の形状、寸法を再検討し、また、適した液流量条件を探索することにより、ようやく粒子の放散促進効果を評価できる装置を作製することができた。これにより、吸収液を流通させた連続式の実験でもリン酸基修飾粒子の放散促進効果が得られることが明らかとなった。また、放散促進効果の持続性も調査することが可能となった。しかし、調査の結果、リン酸基による放散促進効果は時間とともに低下し、持続性が低いことが明らかとなった。また、この低下が放散実験中にリン酸基が脱離することに起因することが明らかとなった。しかし、他のリン酸基以外の官能基についてはまだ実験を行っておらず、これがリン酸基修飾粒子に限定される事象であるかは不明である。また、耐久性の改善方法についても未検討である。 以上の状況を鑑み、達成度はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、スルホン基修飾粒子で放散効果が得られたと同様のバッチ式の実験方法により、他の酸性官能基修飾粒子についても放散実験を行い、促進効果を調査する。また、酸性官能基による放散促進のメカニズムを明らかにするために、これまで調査してきた等電点、Boehm法による表面酸性官能基量、アンモニアTPDによる酸強度と酸量に加え、ピリジン吸着赤外分光法を使用し、各粒子のブレンステッド酸量とルイス酸量を測定する。 また、引き続き固定床型の連続放散試験を行い、リン酸基以外の酸性官能基修飾粒子についても吸収液を流通する連続式における放散促進効果を調査する。また、その時間変化から放散効果の持続性を調査する。放散実験使用前後の粒子の特性を前述のような方法で評価することにより、劣化挙動を明らかにする。さらに、官能基の脱離などの劣化が見られる場合には、脱離を防ぐための修飾方法を検討する。 また、連続放散実験において反応管内の複数個所で温度測定、液のサンプリングを行い、CO2濃度分布や温度分布を測定する。触媒粒子を充填する高さを変えることにより、放散速度の空間分布についても調査する。それらの実測値に基づき、放散プロセスにおける物質移動、熱移動のシミュレーションモデルを構築し、妥当性を検証する。 これまでは、触媒粒子の化学性についてのみ調査できるように無孔性のアルミナ粒子を使用してきたが、より放散を促進するために、多孔質なアルミナ粒子を使用した酸性官能基修飾触媒粒子を調製し、放散促進効果を調査する。 最終的には、実用規模のプロセスを想定し、放散の所要エネルギーを評価する。プロセスシミュレータAspenを使用し、一般的なCO2吸収プロセスと開発された触媒粒子を使用した放散プロセスをAspen上で連結し、吸収-放散の全体システムのシミュレーションを行い、所要エネルギーを評価し、エネルギー削減効果を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度(H29年度)に購入予定であった気液平衡測定用の反応容器および温度調節器の費用を当該年度に購入する予定で繰り越した。しかし、常圧以下の分圧条件での平衡測定において結果に粒子間の差が見られなかったため、触媒粒子の吸収液への添加はCO2と吸収液の気液平衡には影響を及ぼさないと判断し、常圧以上の高分圧での平衡測定は実施しなかったため、それらの装置の購入を取りやめることとした。 それらの購入に充てる予定であった予算については、プロセスシミュレータAspenのライセンス購入に充てることを予定している。当初の計画では別のプロセスシミュレータPro/IIを使用する予定であったが、CO2分離回収のプロセスシミュレーションにおいて世界でも多数の報告があり結果を比較することができること、コスト評価も可能であることが変更理由である。Pro/IIに比べてAspenの方が高額であるため、その差額に充てる。
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