研究課題/領域番号 |
17K06924
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
勝田 知尚 神戸大学, 工学研究科, 准教授 (50335460)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ヘマトコッカス プルビアリス / クロレラ ソロキニアナ / フローサイトメトリー / 熱ショック応答 / 細胞周期 / 細胞同調 |
研究実績の概要 |
本研究では,周期的に熱ショックを与えることにより,緑藻ヘマトコッカス プルビアリスの増殖速度,ならびに最高細胞数密度が向上するという,研究代表者らが見出した新奇な増殖挙動に基づき,微細藻の増殖特性の向上を図る手法の開発を試みている. 平成 29 年度には,概日周期の培養温度と光強度の変化がヘマトコッカス プルビアリスの細胞周期に及ぼす影響を検討した.培養温度を一定に保持した際の最適条件である 20℃ と細胞分裂が停止する 30.5℃ の間で 12 h ごとに変化させると,倍加時間が約 24 h から 14 h まで短縮することをすでに見出していたが,1 周期の温度変化中における増殖挙動を詳しく調べたところ,12 h ごとに培養温度を変化させると細胞増殖が同調すること,ならびに細胞分裂は培養温度を上昇させた際に起こること,が新たに見出された.とりわけ後者は,培養温度を 30.5℃ で一定に保持した際も乾燥細胞重量は増加することから,細胞構成成分の生合成は 30.5℃ で保持したときも継続し,細胞分裂には 20℃ で保持されることを必要とするという当初の予想に反し,さらに分裂酵母の温度感受性株において知られている,分裂期への移行は非制限温度下で起こることにも反することから,新奇な機構の関与が期待される興味深い知見といえる. さらに平成 29 年度には,他の微細藻として,比較的耐熱性に優れた緑藻クロレラ ソロキニアナに注目し,培養温度と増殖挙動の関係を調べるとともに,培養温度を最高増殖速度の得られた 37℃ と細胞分裂が停止する 43℃ の間で 12 h ごとに変化させて増殖挙動を調べた.その結果,熱ショック応答を利用した増殖特性の向上には,最高増殖速度の得られる培養温度と細胞分裂が停止する培養温度の間にある程度の差が必要であることが示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成 29 年度には,ヘマトコッカス プルビアリスの培養温度を概日変化させる際の 1 周期中における増殖挙動を詳しく調べ,予想に反する新奇な挙動が観察された.この結果を検証するために,フローサイトメトリーによる細胞周期の分析を詳細に行った.当初,研究計画書に記載したヨウ化プロピジウムで処理して分析を試みたところ,DNA 量の変化をうまく追跡することができなかったが,測定条件を検討し,ヨウ化プロピジウムの蛍光と重なる波長域に自家蛍光の生じることが明らかとなったため,他の波長域の色素を用いることによって DNA 量の変化を追跡できるよう測定方法を改良した.さらに,一定に保持すると分裂が抑制されるような高温に培養温度を高めると分裂が起こるという結果が得られたことから,ヘマトコッカス プルビアリスの熱ショック応答機序を調べる際に,分裂促進因子に関与する熱ショックタンパク質 (HSP) に追跡対象を絞り込むことができた. 平成 30 年度に設備備品として購入予定のエレクトロポレーション遺伝子導入装置に関し,機種変更を検討するため,今年度配分された研究予算の一部を次年度使用する必要が生じた.そこで,研究計画では平成 30 年度に実施予定であった,他の微細藻における増殖挙動の検討を前倒しして実施することにした.そこでは,比較的耐熱性に優れた緑藻クロレラ ソロキニアナを研究対象とし,培養温度と増殖挙動の関係を調べるとともに,培養温度を最高増殖速度の得られた 37℃ と細胞分裂が停止する 43℃ の間で 12 h ごとに変化させた際の増殖挙動を明らかにした. 以上のように,平成 29 年度には一部予定を変更したが,研究計画書に記載した研究に支障は生じておらず,おおむね順調に進展している.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は,研究代表者らが見出した,緑藻ヘマトコッカス プルビアリスの増殖速度と最高細胞数密度が概日周期で培養温度と光強度を適切な範囲で変化させると従来の最適条件で得られるレベルよりもさらに向上するという新奇な増殖挙動について,その分子メカニズムの解明を試みるとともに,これを応用して他の微細藻の増殖特性の向上を図ることにある.このため本研究では,平成 29 年度に概日周期の培養温度と光強度の変化が細胞周期の各期の継続時間に及ぼす影響とともに,種々のストレスに応答して発現することが知られている HSP の発現挙動に及ぼす影響について検討し,平成 30 年度以降に他の微細藻に対してヘマトコッカス プルビアリスと同様の培養操作を適用し、増殖挙動に及ぼす影響を検討するとともに,概日周期で培養温度と光強度を変化させたときに発現が最も顕著に促進する HSP を恒常的に発現させ、増殖特性の向上を図る計画である.平成 29 年度には,平成 30 年度に予定していた他の微細藻に対する適用性の検討をクロレラ ソロキニアナを対象としてすでに前倒しして開始しており,平成 30 年度には,ヘマトコッカス プルビアリスにおける HSP 発現挙動を詳しく追跡するとともに,さらに他の微細藻に対する適用性を並行して検討してゆく予定である.これらの検討を通して得られた知見は,平成 31 年度に予定している微細藻の形質転換において適用するが,さらに平成 30 年度には,そこで使用するエレクトロポレーション遺伝子導入装置に新方式のものを試用の上,購入し,平成 31 年度の研究に備える予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,平成 30 年度に設備備品としてエレクトロポレーション遺伝子導入装置の購入を予定し,同装置として一般的な米国 BioRad 社製 Gene Pulser Xcell PC の購入費用を研究計画調書に計上していた.ところが,ネッパジーン社 (市川市) が開発した新方式のエレクトロポレーション遺伝子導入装置では,従来方式に比べて高い細胞生存率と遺伝子導入効率が得られ,微細藻に対しても適用事例が増えていることから,この新方式の装置を購入することにした.同社製の装置では,カタログ調査から NEPA21 TypeII と Pro-Vitro-S の 2 機種が本研究に適合すると思われたが,同社より購入前にデモ機で確認することを勧められ,より高額の NEPA21 TypeII が購入できるように当初予算額との差額程度を次年度に繰り越した.この差額分は,平成 29 年度に予定していた消耗品の購入を抑制することによって捻出した.当初予算額と同程度の Pro-Vitro-S を購入した際には,平成 29 年度に購入予定の消耗品を平成 30 年度に購入を進め,一方,NEPA21 TypeII を購入した際には,予備を見込んでいた消耗品の消費を抑制することにより,差額分を補填する予定である.
|