本研究では,緑藻ヘマトコッカス プルビアリスの増殖速度と最高細胞数密度が概日周期で培養温度と光強度を適切な範囲で変化させると従来の最適条件で得られるレベルよりもさらに向上するという,研究代表者らが見出した新奇な増殖挙動について,その分子メカニズムの解明を試みるとともに,これを応用して他の微細藻類の増殖特性の向上を試みた. 最終年度には,前年度に改良,増設した小型バブルカラム式フォトバイオリアクターを用い,ヘマトコッカス プルビアリス,ならびに分類学的に異なる綱に属するクロレラ ソロキニアナにおける培養温度と照射光強度を概日周期で変化させたときの増殖挙動に関する対照実験を行った.その結果,ヘマトコッカス プルビアリスにおいては概日周期で培養温度を変化させると,最適値で一定に保持したときと比べて増殖速度が 1.4 倍まで増大すること,ならびに誘導期間が 1 d 短縮されることが確認された.一方,クロレラ ソロキニアナにおいては,概日周期で培養温度を変化させると増殖速度が 2 倍まで増大することが示された.すなわち、培養温度を適切な範囲で周期的に変化させるのみで,一定に保持したときの最適条件下よりも微細藻類の増殖速度が向上できることを示した. 概日周期で培養温度と光強度を適切な範囲で変化させると,細胞数密度,ならびに DNA 含有量の経時変化より,微細藻類の細胞分裂が同調することが明らかとなった.とりわけ,培養温度を変化させたときには,最適値で一定に保持すると連続的に細胞数密度が増加するのに対し,高温期に移行するときに細胞分裂の生じることが明確に観察された. したがって,培養温度や光強度を概日変化させることは,微細藻類の細胞分裂の同調を促し,増殖速度を向上できることが示された.
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